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歓迎会①
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水曜日が過ぎ、木曜日が訪れる。
昨日は一昨日よりも熱は下がっていたが、まだどこか身体が怠くて、念の為に休みを取らせてもらった。
それと、一ノ瀬くんの作ってくれたチャーハンとスープは冷めてしまっていたけど、温めれば普通に美味しかった。
多分一ノ瀬くんは一人暮らしだと思う。結構作り慣れたような味だった。
そして、休みだった昨日は一ノ瀬くんが家に来ることは無く、LINEで大丈夫ですか、なんて送られてくるだけで。結構よそよそしかった。
けどまぁ、それでいい。
俺のことが気になっているだけで好きじゃなければ、まだ一ノ瀬くんが傷付くことも無い。きっと俺は、一ノ瀬くんに好きだって言われても、それと同等の好きは返せないから。
だって、まだ会って1週間だし。
今なら全然引き返せる。
「はぁ……」
俺は、ネクタイを結ぶ手を動かした。
▽ ▽ ▽
「おはようございます」
今日は何となく8時少し前に出勤した。皆はそのくらいの時間帯に来るのだが、俺にしてみればいつもより遅い。
そして俺は、自席に着く前に部長の元へ向かった。休みをもらったから、何か一言くらい言っておいた方がいいだろう。
「篠原部長」
部長のデスクまで行くと、部長は紙面から顔を上げ優しく笑った。
「おー、佐伯くん。風邪はもう良くなったのかい?」
「はい、ご迷惑をお掛けしました」
浅く頭を下げると、部長はポンと俺の肩に手を置いた。特に特別な理由が無いことくらい分かっているが、反射条件で肩が小さく跳ねる。
「……あの、仕事は滞っているでしょうか」
すると部長は、鼻が高いとでも言うような態度で答えた。
「それは問題無いよ。本人が出来るところまでだけど、一ノ瀬くんに何個か案件を任せたから」
「一ノ瀬くんが?」
俺は素直に驚いた。
「まぁでも、その分佐伯くんにも仕事は入ってきてるから安心してよ」
「そうですか」
とりわけ可笑しい訳でも無かったが、雰囲気を感じ取って愛想笑いをした。
その後部長から開放されると、やっと自分のデスクに着くことができる。
「佐伯さん、風邪はもう大丈夫なんですか?」
早坂さんが、俺の様子を窺うように問い掛けた。
正直なところ、俺は人に心配されるのが苦手だ。なんなら、風邪引くなんて馬鹿だなーなんて笑ってくれた方が気が楽だ。しかし、早坂さんのことだから、そんなことは口が滑っても言わないだろう。
「別に大したこと無かったです。お気遣いありがとうございます」
「そうですか?無理はしないでくださいね」
建前。
無理はしないで。そう言われて嬉しいのは一ノ瀬くんだけかもしれない。一ノ瀬くんは、心から俺を心配してくれる。
「……一ノ瀬くん」
俺が名前を呼ぶと、一ノ瀬くんはパソコンの画面から視線をこちらに移した。
「はい」
いざ目が合うと、何を言おうとしたのか飛びそうになり、俺は何とか言葉を留める。
「一昨日は、何か失礼なことしてすみませんでした。一ノ瀬くんの作ってくれた料理も、温かいうちに食べられなくて……」
すると、いつも無表情な一ノ瀬くんの眉が少しだけ上がった。気がする。
「いえ、あれくらいなら、いつでも作れますので」
一ノ瀬くんの表情が堅く見えたのは、気のせいだろうか。でも、そこはあえて気にしない。
「あ、あと、俺の仕事まで引き受けてくれてありがとうございます」
「はい」
やっぱり、俺の見間違いだろうか。
一ノ瀬くんは、いつもの無表情な一ノ瀬くんだ。
1日2日でそう変わるものでもないか。
また気が付けば一ノ瀬くんのことを考えてしまい、これではいけないと、俺はいつものように仕事の作業へと意識を転換させた。
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