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③
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そして当日を迎えた。
焼き肉屋で歓迎会を行うと連絡を受けた俺は、一旦家に帰り、ある程度ラフな服装に着替えて会場に向かっていた。
部長が指定した店は、会社の周囲よりも人通りが少なく、何と言うか、ディープな場所といった感じのところだった。それこそ、部長の趣味なのかもしれない。
(ここかな……)
目的の場所と思しき店を見つけ、俺はタクシーを降りる。少し細い道に入ったから小さい店なのかと勝手に想像していたが、そこは割と立派な店だった。
中に入ると、熱気とそれに伴う威勢の良い店員のいらっしゃいませが響いた。あまりこういう店には来た事が無かったから、何となく気圧される。
「あの、会社の歓迎会で来たんですけど…」
「はい!奥の個室に、既に何名か入られています」
「分かりました」
とりあえず奥の方に進むと、数名程座っている個室が現れた。顔触れからして、この個室だ。
「お疲れ様です」
靴を脱ぎ上に上がると、皆同じように声を掛けてくれた。部長は勿論いる。
腕時計を確認すると、時刻は6時20分少し過ぎ。集合時間は7時だから、まだ早かったかもしれない。
部長には前の方に座れと言われたが、そこまで強い押しじゃ無かったから後ろの方に座った。
「………」
一ノ瀬くんはまだ来ていない。
「陽裕くん」
「っ!」
男性の声に驚き視線を上げると、そこにはにこにこ笑う世良郁弥の姿があった。
世良さんは俺より2つ上の先輩で、常に笑顔な人だ。髪の毛は茶髪で、少しチャラい雰囲気を受ける。
「……お疲れ様です」
「今日もそんなにビクビクしちゃって、可愛いねぇ、陽裕くんは」
そんなことを言って何のつもりか、肩を組んでくる。この人には女遊びが激しいという噂があるから、余計に怖い。
「何の用ですか」
心臓バクバクして変になりそうだが、これでも一応先輩だから退けてとは言えない。しかし、本当は今すぐにでも開放されたかった。
「なに?用が無いと来ちゃいけないの?」
「別に、そんなことは言ってませんけど……」
チラッと周りを見るが、女性陣は楽しそうに話しているし、他に男性は少ない。この状況を打破してくれそうな人はいなかった。
「あーそうそう。オレ最近、彼女に振られたばっかでさぁ」
世良さんは然程残念がる様子もなく言った。
だから何ですか、早く離れてください。
なんて言えたら楽になっただろうに。世良さんは全く俺から離れる素振りを見せない。
「ねぇ、陽裕くんは可愛いね。オレの彼女にならない?陽裕くんなら抱けるわ」
何を言っているんだ、この人は。男となんてヤれる訳がないだろう。
「……そういうこと言わないでください」
「えー?冷たいなぁ、陽裕くんは。てかこっち見てよ」
「嫌です」
俺は頑なに視線を逸らす。
この人にこっち向けなんて言われても、従いたくはなかった。
すると、突然世良さんに頰を掴まれ、強引にそちらを向かされる。
「こっち向けって言ってんじゃん」
急に口調がきつく変わる。
低くなる声に、恐怖が増した。
さっきまでの笑顔が消え、自然に身体が震え出す。
これは、いつもの世良さんじゃない。
「オレと付き合わない?」
「はっ…?」
その瞬間、唇が塞がれる。俺は目を丸くした。
「はっ…ん……」
こんなの、全然軽いキスなんかじゃなくて。
世良さんに後頭部を押さえられ、身動きが取れなくなる。
この後何されるの?
怖い。
しかも、次第に舌が入って来る。
嫌だ……!
「……っやめてください!」
俺は世良さんの胸を押して突き飛ばした。
他の人の視線が俺たちに注がれる。だけど、それよりも、この行為に訳が分からなくて真っ白になる。
「あー、ごめんごめん。何でもないよ」
世良さんはまたにこにこして、皆に手を合わせる。皆はうるさいよーとか、特に気にすることも無く自分たちの話に戻って行った。
「……それで?なんでそんなに拒否するかな?」
また俺に触れてこようとするから、次こそは距離を取る。なんでって、そんなの怖いからに決まっているじゃないか。
「陽裕くん、先輩命令だよ」
「…来ないで、くださ……」
俺は何を否定する訳でもなく、何度も首を横に振った。
「お疲れ様です」
「………?」
声の方を向くと、一ノ瀬くんが上がって来た。
すると、すぐに目が合って、状況を飲み込んだらしい一ノ瀬くんが近づいて来る。
「俺、ここ座っていいですか」
俺と世良さんの間を指差す一ノ瀬くん。
世良さんの様子を見ると、意外にも素直ににこにこと席を開けた。
「はい、どーぞ。遥斗くんは今日の主役だからねぇ」
「すみません」
一ノ瀬くんが座ると、世良さんは立ち上がり、微笑みかける。
「じゃあね、陽裕くん」
わざと俺の名前を強調して、世良さんはこの場を去って行った。
その後で、一ノ瀬くんに質問される。
「佐伯さん、あの人と仲いいんですか」
「え?」
俺は大きく首を振ってそれを否定した。
「無いです!てか嫌いです!」
さっきの出来事を思い出すだけで腹立たしい。あんな冗談、やめて欲しい。
「そうですか。なら良かったです」
一ノ瀬くんは無表情で、そう答えた。
今、一ノ瀬くんは何を思っているのだろうか。
「お疲れ様でーす」
時刻は刻々と7時に近付き、ほとんどの人が個室へと入って来た。
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