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④
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歓迎会が始まってから、約1時間が経過しただろうか。
一ノ瀬くんからの挨拶やら儀式的なものは始めに終わし、今はもう完全に宴の席と化していた。これだから、うちの部署は軽い。
一応この場では今日の主役である一ノ瀬くんは、いろんな人に絡まれる。しかし、何とか断ったり短く済ませるなりで、一ノ瀬くんはずっと俺の隣に居てくれた。
「みなさん、結構酒飲むんですね」
「大人ですから……」
とか言う俺は、今だに一口も飲んでいない。乾杯の時は、口を付けるだけで実際には飲まなかった。
この会の終了時刻は、9時の予定だ。その後に二次会なんかもあるが、実質歓迎会はあと1時間程で終わる。俺はいつ一ノ瀬くんを家に誘うべきか、タイミングを窺っていた。
すると、こっちの話を聞いていたらしい生駒さんが、後ろから口を挟んでくる。
「佐伯さんはお酒飲んじゃダメですよー。すーぐに酔っ払っちゃいますから」
なんて言っている生駒さん本人が、いちばん酔っ払っている気がするが。顔は赤いし、いつにも増して腑抜けたような表情をしている。
「生駒さんこそ、飲み過ぎなんじゃないですか」
「まだまだ大丈夫ですー」
いや、既に手遅れか。
生駒さんひとりで飲んでいる訳ではないだろうが、女性陣のテーブルの上には結構な量のビール瓶が置いてある。
「お酒飲まないとやってられんのですよー」
ねー?と生駒さんは女性陣の中に戻って行った。
「佐伯さん酒飲めないんですか」
「まぁ、はい。そうですね」
ビール缶1本でも飲んでしまうと、すぐに酔って寝てしまうから、こういう場では酒は飲めなかった。
家で休みの日、すごくストレスが溜まっている時は、極たまに飲んだりもするけど。
「一ノ瀬くんはどうなんですか、酒は」
「あー、俺は別に普通です。あんまり酔わないかもしれないですね」
「強いんですか」
確かに、一ノ瀬くんが酔っている姿は想像し難いかも。この無表情がへろへろになるのは、どうなんだろう。
「何だ一ノ瀬くん、喋ってないで食べなよ」
同じテーブルに座っている部長が、一ノ瀬くんに肉を進める。一ノ瀬くん自身、あまりここに来て肉は食べていなかったので、断る訳にはいかなかった。
「はい。ありがとうございます」
そう言って、とりあえずは焼いてある肉に箸を伸ばす。部長は満足気にその様子を見ていた。
「ここの焼き肉は美味しいよな」
「…そうですね」
本当にそう思っているのか、微塵も笑顔を見せずに肉を食す。だが、部長も部長でおおらかな性格の為、そこら辺は気にしない。
俺は、部長が他の人たちとの話に戻った時に、一ノ瀬くんに話し掛ける。
「あの、一ノ瀬くん……」
「はい」
もう食べる気が無いのか、一ノ瀬くんは箸を置いてこちらを向いた。
何の前触れも無く、一ノ瀬くんは会話に持って行かれる為、そろそろ話をしなければならない。このまま誘えないと、あのケーキは台無しだ。
「…あんまり、食べ過ぎないでくださいね」
「え?ああ、はい」
明らかに、一ノ瀬くんの頭上にはクエスチョンマークが浮かんでいる。なぜ?と言った感じだ。
「一ノ瀬くん、この歓迎会が終わったら、俺の家に来ませんか」
「………」
一ノ瀬くんは黙り込んでしまった。
前は口から出任せのような感じで言ってしまったが、今回は真剣に言っている。それが一ノ瀬くんに伝わり、逆に言葉に困っているのだろうか。
「……一ノ瀬くん?」
不安になって一ノ瀬くんの顔を見ると、珍しく一ノ瀬くんも不安げな表情をしていた。
「何でもないです。ぜひ行かせてください」
どうしたの?なんて聞ける訳もなく、俺は一ノ瀬くんの返答に頷いた。
こうして、賑やかな歓迎会は終わりに向かっていく。
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