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⑤
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歓迎会の終わる9時に近付くと、部長は二次会への参加を呼び掛け始めた。うちの部署の社員は結構楽しいこと好きだから、多くの人が参加するようだ。
そして、部長は俺と一ノ瀬くんのところにも出向いて来る。
「一ノ瀬くんと佐伯くんも参加しない?」
部長直々に聞かれるが、参加は出来ない。
俺は心の中で何度も頭を下げながら断った。
「すみません、篠原部長。お誘いしていただき嬉しいのですが、この後、私用がありまして……」
行けませんとキッパリ言い切ってしまうのは申し訳なくて、後半は濁す。
「あー、そうかそうか。それなら仕方無いね」
「あ、俺も行けません。折角お誘いいただいたのに、すみません」
同様の質問をされる前に、一ノ瀬くんは答えた。
しかし部長は残念がることも無く、そうかと笑った。こういう時は、篠原部長で良かったと思ってしまう。
「チームリーダーと今日の主役がいないのは物足りないけど、そこは仕方無いね」
お疲れ様と俺たちに残して、部長は人の多いところへと去って行った。
「すみません……参加、したかったですか?」
恐る恐る聞くと、一ノ瀬くんはコップに残っていたお茶を一気に飲み干す。
「別にそんなことないです。てかそもそも俺、賑やかなのはあんまり好きじゃないんですよね」
「そうなんですか……」
と言うことは、この歓迎会もあまり楽しくなかったのだろうか。そうだとしたら、何だか申し訳ない。
「…でも、佐伯さんと一緒なら楽しいです」
「え?」
心中が顔に出ていたのか、ふいに一ノ瀬くんに言われた。だが、本当にそう思っているのか、やはり一ノ瀬くんの表情に変わりは無い。
すると、部長は立ち上がり声を上げると、皆の注目を集めた。
「それじゃあ、もう9時になるので、今日は解散にしまーす」
全員を二次会に誘い終えたのか、部長の軽い一言で会はお開きとなるようだ。
しかし、ほとんどの人は参加をすることにしたのか、まだ帰らない人が多い。
帰る人の中には、世良さんの姿があった。
「俺らも帰りますか。まぁ、佐伯さんの家にですけど」
「……はい」
俺の家だと言われると、何か意識してしまい、言葉に詰まる。
そうか、一ノ瀬くんは俺の家に来るのか。今更ながら緊張してきた。
「では、お先に失礼します」
一ノ瀬くんは、残る社員の人々に一礼してから、個室を出た。俺も慌てて、一言残しその場を離れる。
▽ ▽ ▽
その後タクシーに乗れる場所まで行く為、俺と一ノ瀬くんは夜の街を歩いた。
「結構暗くなりましたね。来た時はもう少し明るかったんですけど」
「そうですね。佐伯さん、寒くないですか」
「大丈夫ですよ」
とか他愛無い話をしていると、突然一ノ瀬くんの口調がさっきまでとはうって変わり始める。
「佐伯さん」
それは、少し怒りっぽい口調だった。
俺は僅かに怖気付くが、その対象が俺じゃないと分かって安心する。
「…なんですか?」
「あの、ほんと勝手なこと言うと思いますけど、世良さんに近付かないでもらえますか」
予想外の言葉だった。俺は理解に苦しむが、そこは一ノ瀬くんに訳を問う。
「どういうことですか……?」
俺の問い掛けに、一ノ瀬くんはイライラを吐き出すように溜息を吐いた。
「…あの人は、すぐ佐伯さんに手を出しそうで心配なんです」
あー、それは否定出来ないかもしれない。
てか既に無理矢理キスなんかさせられているだけど、それを言ったら、一ノ瀬くんは世良さんに殴り込みに行きそうだから、言わない。
「だから、佐伯さんは常に、世良さんを警戒してください。お願いします」
俺も世良さんは苦手で拒否する理由も無いから、素直に頷いた。
もうあれ以上は、俺だって何もされたくない。
「分かりました」
俺がそう言うと、一ノ瀬くんは安心したように息を吐いた。
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