アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
②
-
早くも火曜日だ。
いくら世良さんが嫌で会社に行きたくないと言えども、今日はやって来る。これでも大人だから、休みたくても会社は休めない。
昨日の月曜日は、やたら世良さんのスキンシップが多い日だった。もしかしたら、その日から毎日そんな接し方をされるのかもしれないが。
事あるごとに頭を撫でてきたり、手を触ってきたり、荷物を持ってくれたり。それだけではないが、とにかく世良さんは俺に接してきた。
しかし、その度に俺は世良さんの手を払い除けたり拒絶していたから、すごく気疲れする1日だった。ほんとにもう、いつか襲われそうで怖い。
▽ ▽ ▽
水曜日。
今日も世良さんは昨日ペースで俺に触れてきた。
やはり、月曜日から世良さんはスキンシップが多くなっているようで、昨日も結構関わってしまった。
(…時間だ)
時計を見て胸を撫で下ろす。6時、退社時間だった。あとは帰ってしまえば、世良さんの緊張感からは開放される。
そう思ったが、部長に呼ばれた。
「佐伯くん、ちょっといいかな」
「はい」
部長のところまで行くと、部長はデスク脇のダンボールを指差した。
「悪いんだけど、これ会議室まで持って行ってくれないかな」
またか。
「はぁ……」
前に抱えて持って行った時よりは少ないが、今日はちゃんと台車がある。
俺は結構部長に好かれているようで、こういう周りに頼み難いと思った時は、いつも俺に預けてくる。
まぁ俺自身、男性の頼み事を断わるのは、後で恨みを買いそうだから出来ないのだけれど。
「じゃあ、よろしくね」
「分かりました…」
部長も部長で何か仕事があるらしく、俺が荷物を運び出す前に席を立って部室を出て行った。
部長なんて役職にもなると、勤務終了時間など関係無いのだろうか。
(……運ぼう)
台車を押し始めると、割と荷物は重かった。これは抱えては持てなかったな。
「……佐伯さん」
「はい?」
そう思って部室を出ようとすると、一ノ瀬くんに呼び止められた。
「佐伯さん、それ会議室に行くんですよね。俺、持っていきますよ」
恐らく一ノ瀬くんが、世良さんのことを考え言っているというのは分かった。1人で行ったら、また世良さんに絡まれるから。
しかし、一ノ瀬くんは既にコートを羽織っていたし、帰る準備をしていたことは目に見えている。それなのに頼むのは気が引けた。
「大丈夫です。もう時間ですし、世良さんだって俺に構わず帰りますよ」
一ノ瀬くんは俺の言うことはあまり否定してこないから、俺がしなくていいなんて言ったらそうしてくれる。
一ノ瀬くんは少し反応に困って、それから口を開いた。
「……分かりました。でも、もし世良さんが関わってくるようでしたら、すぐに逃げてくださいね」
「はい」
なにも、そんなに気を遣ってくれなくてもいいのに。俺だっていい年した大人だ。
だけど、やっぱり世良さんに近付くのには抵抗があるから、早くこの雑用は済ませたい。
俺は急ぎ気味に部室を後にした。
ダンボール箱にはでかでかと、3階会議室と書かれてあるから、エレベーターを使って下に下りる。荷物で場所を取るから、誰も乗って来なくて良かった。
(着いた……)
あとはこれを会議室に持っていけば終わりだ。そして俺は扉が開いたから、廊下へ足を踏み出す。
降りた先で──
「あ……」
──見事に世良さんと鉢合わせした。
あっちも僅かに驚いた表情をするが、俺だと認識した瞬間にまた笑顔に戻る。
「……っ」
俺は構わず歩き出した。
しかし、何とか穏便に済ませようとしたところで、逃がしてはくれないのがこの人の性分。
「手伝ってあげようか?」
俺は世良さんの言葉など無視して、歩みを進めた。だが、当然の如く世良さんは俺の隣をついて来る。
「ねぇ、なんでそんなにオレの事避けるかなぁ……」
そう言う世良さんも、やっぱり表情は変わらない。いつものように、口角を上げた世良さんだ。
そういうのが嫌いだって、この人は気付かないのか。
「あ、ここだね、会議室」
ダンボールに書かれた文字を見たのか、世良さんは目的の部屋を指差す。
分かってるわ、と思いつつも、俺は扉を開けた。鍵は開いている。
とりあえずは部屋の角にダンボール箱を下ろした。さりげなく、世良さんも手伝ってくる。
「結構重いんだねぇ」
「………」
俺は何も言わず、黙々とダンボールを移動させる。
この人と関わるのは、一ノ瀬くんとの約束を破るようで嫌だった。だから、出来るだけ無言を貫き通す。
そして全て下ろし終わり、台車を押しながら俺は無言で部屋の出口へ向かう。
しかし、
「陽裕くん」
「いっ…」
世良さんに腕を引かれたかと思ったら、そのまま壁に押し付けられた。細身の割に、力が強い。
「ぅ……」
ぶつけたところが、鈍く痛む。
腕を掴まれたままで壁に手を付く世良さんに、俺の逃げ場は無かった。
どうしよう……
「逃さないよ?」
俺の心境とは真逆に、世良さんは怪しく微笑んだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
24 / 331