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③
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目の前の世良さんが怖くて、身体が強ばる。
この人のこと、甘く見過ぎたかもしれない。歓迎会の日以来、過激なスキンシップは無かったから大丈夫だと思ってた。
もしかして、このまま犯される?
悪い予感ばかりした。
こんなことなら、一ノ瀬くんに来てもらえば良かった。そう思っても、既に遅い。
「どうして震えてるの?」
「っや……!」
世良さんの顔が近付いて来て、俺は目を瞑り斜め下に頭を下げた。
しかしそんな抵抗も虚しく、頬を掴まれて正面を向かされると、唇を当てられる。
「はっ……ぁ」
苦しくて顔を逸らすが世良さんは止めてくれなくて、何度も触れてきた。
力が抜けそうで手に力を入れたいけど、世良さんのスーツを掴むのは嫌だったから自分の服を握る。
「は、ぅっ……ん…!」
この行為が怖いというのも相まって、酸素がうまく吸えない。休みをくれないキスに、俺は浅い呼吸を繰り返した。
初めから舌を挿し入れてくるから、そんな深いキスには対応できない。こんなの、初めてだ。
「……も、やだっ…」
俺は隙を見て、その場にへたり込む。逃げられないと分かってか、世良さんの手は自然と外れた。
「はっ、は……、ぅ…」
また過呼吸だ。
苦しい。
「……陽裕くん、大丈夫」
世良さんはそっと俺を抱き締めて、背中を叩いた。さっきまでの強引さが消え、突然訪れる優しさに困惑する。
俺がこうなるって、最初から知っていたんじゃないのか?
「大丈夫。ゆっくり息吐いて」
「はぁぁっ……はぁ、ぁ……ッ」
こんなことになったのはアンタのせいだろ。そう思うが、今は世良さんの言葉に耳を傾けるしかなくて、そんな自分が嫌になる。
本当は、一ノ瀬くんがいいのに。
怖い。こんな男に抱かれてるのが嫌だ。
「いいよ。もっとゆっくり……」
「はぁっ…、は……っ」
だんだん呼吸が安定してきて、いつも通りの息が出来る。
そして落ち着きを取り戻した俺は、グイっと世良さんの肩を押し返した。目が合うと更に心臓が苦しくなって、滲んだ涙が嫌でも流れる。
「……っなんで、こんなことするんですか!」
泣きながらそんなことを言っても、迫力が無いことは分かってる。だけど、もう耐えられなかった。
「なんでって……陽裕くんが好きなこと以外に理由なんてあるの?」
さも当然のように、世良さんは言った。
「…ねぇ、いいよね、陽裕くん」
「っ……」
俺が何も言わずにいると、世良さんが丁寧にも、俺のスーツのボタンを外し始める。
「何ですかっ…」
手を退かそうにも、力が入らなかった。
これじゃ、前に痴漢に遭った時と同じだ。このまま、世良さんにされるがまま……
「嫌だ!」
そう叫ぶが、煩い、と世良さんに唇を塞がれる。
会議室の扉は閉まっているし、ガラス戸では無いから外から俺たちは見えない。助けを呼ぼうにも、こんなところに人が来られるのは恥ずかしかった。
「ふぁ…、っ…ん……!」
何で今日に限ってベストを着て来なかったんだろう。ジャケットの下はワイシャツだ。すぐに素肌に手が行ってしまう。
「世良さっ……ぃや!」
そしてやっぱり、ワイシャツのボタンも外された。ネクタイも解き、ジャケットが肩からずり落ちる。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
どうすればいいの?
訳が分からない。頭が混乱していて、怖い。
「ぁっ……」
露になった肌に、ツーっと世良さんの指が伝う。
変な声が出そうになって、咄嗟に手の甲で口元を隠した。
「…嫌?陽裕くん」
嫌?って、そんなの嫌に決まってる。今すぐ離れて欲しい。だけど、世良さんはそうはさせてくれないから。
「止めて…くださ……っ」
「んー?止めない」
ほら。絶対にそう言うじゃん。
世良さんは俺が嫌がるのなんて気にしないで、腹や鎖骨に唇を這わせてくる。そんなのも見ていられなくて、ぎゅっと目を閉じた。
「ふっ、ぅ…ッ」
恥ずかしい。怖い。助けて欲しい。
「一ノ瀬、くっ……」
世良さんの舌が次第に胸に寄ってきて、目を開いた拍子に視線が交わる。
「やだ!……退けてっ…」
「怖くないから」
何をもってそう言っているのか。世良さんはまた俺を抱き寄せる。心臓が苦しくて、可怪しくなりそうだった。
「…陽裕くんさぁ、なんで遥斗くんなの?」
耳元で、優しく問い掛けられる。
なんでって言われても、別に付き合っている訳では無いし、俺は言葉を返せなくなった。
でも、俺が世良さんに揺らぐことは現在も今後も一切無いだろう。
「オレ、多分あの子より、陽裕くんを幸せにできるよ」
「そんなの、分かりませんよ……」
「そうかなぁ?」
「佐伯さん!」
その時、会議室の扉が開くと共に、一ノ瀬くんが部屋に入って来た。俺の視界に映る一ノ瀬くんは、目を丸くして驚いている。
「あーぁ、もう見つかっちゃったねぇ遥斗くん」
世良さんのその態度に、一ノ瀬くんは舌打ちをして見下した。完全に怒ってる。
「…すみません。佐伯さんから離れてもらいますか」
いつものように気丈な口調で話してはいるが、声の波長は僅かに揺れていた。
帰り際に様子を見に来たのか、コートを着ている一ノ瀬くんはカバンを乱雑に床に置く。
「一ノ瀬くん、助けて……」
「はい」
一ノ瀬くんが歩み寄ってくると、世良さんは俺から離れた。
「遥斗くん、そんな怖い顔しないでよ」
「アンタ、佐伯さんに無理矢理こういうことしたんですか」
一ノ瀬くんは、世良さんの言葉など聞き入れずといった感じだ。そして、当の世良さんも調子を変えない。
「うーん、そうだね」
その瞬間、一ノ瀬くんは世良さんに殴り掛かりそうになったが、問題ごとは起こせないからグッと堪えた。
世良さんは、そんな一ノ瀬くんの肩に手を置き、耳元で何かを言う。だけど、俺からの位置じゃ、その内容までは聞き取れない。
「…じゃあね、遥斗くん」
その後、世良さんは一言残して部屋を出て行った。
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