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優しく①
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世良さんが扉を閉めると、一ノ瀬くんは自分を落ち着かせるように息を吐いた。
初めてあんなに怒った一ノ瀬くんを見た気がする。歓迎会の後、俺に言った時よりも怒ってた。
「…佐伯さん、そっちに行っても大丈夫ですか?」
俺が一ノ瀬くんを拒否する理由なんて無いから、頷く。
「……っ」
俺は、膝を抱え込んで体勢を変えた。
その俺の前に、一ノ瀬くんが屈んでコートを掛けてくれる。
「寒いんですか」
違う。
俺は首を振って否定した。
「前、閉めてください」
「…っはい……」
一ノ瀬くんに言われた通りワイシャツのボタンを留めようとするが、手元が狂ってなかなかうまく出来ない。
1つのボタンを留めるのに、10秒以上も掛かる。
「…俺やりましょうか」
「いや、いいです……」
俺はかぶりを振った。
一ノ瀬くんは無理に手伝おうとはせず、ただ俺が作業を終えるのを待ってくれている。
早くしないと、一ノ瀬くんが待ってる。そう考えると、余計に手が自由に動かせなくなって。
しかし、そこで気付かれた。
「佐伯さん、もしかして勃ってますか」
「っ……!」
思わず手が止まる。
そんなのがバレたら恥ずかしくて、そうです、なんて言えない。
堅く口を閉じ、俯いた。
「佐伯さん」
「……ッ」
そっと肩に手を触れられて、ビクリとしてしまう。
こんなの、一ノ瀬くんは何て思うんだろう。気持ち悪いって、思う……?
「…泣かなくてもいいです」
なんて浅ましいのだろう。
世良さんに触られることがあんなに嫌だったのに、どうして身体は反応するの?
もう嫌だ。こんなの、一ノ瀬くんに見られたくない。
「違うんです……っ」
こういう時、何て言ったらいいんだろう。
一ノ瀬くんに、卑しいって思われる?
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
俺のこと、嫌いにならないで。
「…ッごめん、なさ……っ」
また涙が零れて、どうしようも無くなる。これじゃあ、また一ノ瀬くんを困らせてしまう。
「佐伯さん、大丈夫ですから」
「俺、分からなっ…ごめ、な……!」
一ノ瀬くんの言葉も頭に入ってこない。
どうしたら分かってもらえる?どうしたら嫌われない?どうしたら……
「佐伯さん」
「やっ……」
涙を拭っていた手首を掴まれた。
視界が霞み、一ノ瀬くんの顔がぼんやりとしか見えない。
「佐伯さん、泣かないで。大丈夫です。俺、別に変だなんて思いません」
「ど、して……」
こんなの、変に決まってる。
言ってることと身体に表れる反応が違うなんて、そんなの気持ち悪い。
「…とりあえず、ここで待っててください。佐伯さんの荷物取って来ますから」
そう言って、一ノ瀬くんは立ち上がった。でも、会議室で一人残されるのも、怖いし嫌だ。
「待って…」
俺の声に、一ノ瀬くんはカバンを持って振り向いた。
「置いて行かないでください……」
「いや、でもそれじゃあ上には戻れませんよ」
「……ここにいたくないんです……」
一ノ瀬くんは、しばし俺を見詰めて考えた。そして、カバンから家の合鍵を出して、それをこっちまで持って来る。
「これ、俺の家の鍵です。コートの前閉めて、俺の家まで行ってください。あとこれ、財布です」
合鍵と一ノ瀬くんの財布が渡される。
「俺は電車で帰るので」
俺はコクンと頷いた。
一ノ瀬くんが部屋を出て行った後で、まずは落ち着いてボタンを留める。
ネクタイを結び直すのは面倒だったので、ネクタイとジャケットは手に持ち、コートを閉めて立ち上がった。
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