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全身を映す程の鏡はないから、洗面台の鏡で自身の姿を確認する。
服装、髪型におかしなところは無いかの確認は勿論、口角を上げたりと表情の練習までした。
(……よし)
最後に気合いを入れて、俺は洗面所を出る。
すると急にチャイムが鳴って、俺は腕時計で時間を見た。丁度12時。
俺は慌ててリビングのテレビを消し、財布を持ち、玄関で靴を履いた。
「…一ノ瀬くん」
扉を開けると、玄関の前で一ノ瀬くんが待っていた。おはようございます、と僅かに微笑む。
「おはよう、ございます…」
一ノ瀬くんの顔を見ると途端に意識し出してしまい、目を逸らす。こんな調子じゃ、色々心配していたことが馬鹿らしくなってくる。
「……服、買ったんですか」
まさかの質問に、俺は思わず視線を上げた。
なぜ分かったのだろうか。
「そうですけど…」
「やっぱりそうですか。前に見た時とイメージ違うな、と思って」
前の、とは初めてお出掛けに誘われた時のことか。
本当はこの服、自分で選んだのではなく、店員さんに相談して決めてもらったものだった。
しばらくおしゃれなんてしてこなかったから、どんな服を着て行くべきか、全然分からなかったのだ。
「すごく似合ってます」
そう言う一ノ瀬くんに偽りは無くて。
俺だって、似合ってる、と一ノ瀬くんに言いたいけど、それは恥ずかしくて言えない。
「それじゃあ、行きましょうか」
俺は、頷くことしか出来なかった。
▽ ▽ ▽
少し家を離れると、一ノ瀬くんが話し掛けてきた。
「…何か食べましたか」
「食べてないです」
昼食は食べていないが、それ程お腹が減っているという訳では無い。しかし、時間帯からしてどこかに食べに行くのだろう。
「食事ができる場所で、どこか行きたいところありますか」
そう聞かれても、ほとんど外食はしない俺にとって、おすすめの場所など無かった。
「どこでもいいですよ」
なんて答えると、そうですか、といつも通りの返事が返ってくる。
そして、何気なく手を差し出された。
「…手、繋ぎませんか」
「えっ」
思いがけない提案に、俺は少し混乱する。
休日だから人も多くて、その中で男同士が手を繋ぐなんて人目に付き過ぎる。恥ずかしいだなんて言ったもんじゃなかった。
「嫌ですか」
「ぅ……いや……」
嫌じゃない。外じゃなければ繋いでるよ。
繋ぎたくないんじゃなくて、繋げないんだ。
「はっきり言わないなら繋ぎますよ」
「や、だって…」
したくない訳じゃないから、はっきりなんて断れない。俺は何も言えないまま俯いた。
「わ……っ」
すると、一ノ瀬くんに手を握られて近くに引き寄せられる。
その後、やめて、と言おうとする前に、手を繋いだまま一ノ瀬くんのコートに手を入れられた。
「これでいいですか」
「うぅ……」
もう断れなくて、ただ唸ることしかできない。
少なからずこちらを見ている人もいるし、すごく恥ずかしかった。
「歩きましょう」
どうして一ノ瀬くんはこんなに冷静でいられるんだろう。
周りから顔を伏せて、俺は一ノ瀬くんと一緒に歩き出した。
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