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「お待たせしました。オムライスをご注文された方は…」
ウェイトレスが料理を両手に持って来る。俺は軽く手を上げた。
落としてしまわないように、ウェイトレスはゆっくりと料理をテーブルに置く。
「…では、ごゆっくり」
目の前のオムライスは、何とも俺の食欲をそそる。卵を割ると半生状態でチキンライスの上にとろけるオムライス。これは飲食店ならではだ。
「本当に好きなんですね」
「……?」
「オムライス」
「ぁ、はは…」
そんなに顔に出ていただろうか。
何となく気恥ずかしくて、笑うしかない。
照れ隠しという訳では無いが、俺はオムライスを1口頬張った。
「……うまい…」
やっぱり美味しい。どこに行っても、オムライスにハズレは少ない。
しかし、ナポリタンを食べながら一ノ瀬くんが俺の方を見てくる。何だか楽しそうだ。
「…何ですか」
「いや、何か可愛くて」
ふふ、と一ノ瀬くんが笑う。
そして、ナポリタンの皿を退かすと、俺の方にグイっと近付いて来た。
「それ食べいです」
「オムライス、ですか?」
「はい」
俺は目の前のオムライスに視線を落とし、考える。
あげたくない訳じゃなくて、こういう場合はどうやってあげればいいのだろう。
「…どうぞ」
とりあえずオムライスを皿ごと一ノ瀬くんの前に押した。
「駄目なんですか?」
一ノ瀬くんは期待外れと言うように笑って、首を傾げる。
やっぱり、これは食べさせてあげるべきなのだろうか。その、俗に言う、あーんてやつ?
「や、でも、誰かに見られたら…」
「誰も見てません」
一ノ瀬くんは即答する。
確かにここは角の席だけど、見られない確信など無い。でも、どうしよう。すぐにやれば見られないかな。
「1回だけですよ…」
「はい」
1回だけならいいか。
俺は一口分をスプーンですくい、一ノ瀬くんに向けた。少し開いてる口に、そっとそれを差し込む。
「………」
「…………」
一ノ瀬くんが食べている間、誰かに見られていないか辺りを見渡してしまう。だが幸い、このテーブル周りにお客はいなかった。
多分、見られていない。……はず。
「…ありがとうございます」
それからオムライスは自分で食べようとするが、スプーンを口に入れようとしたところで留まる。
これ、一ノ瀬くんが口を付けたやつだ。てか、その前に俺が使っている。
「……か、かんせ…っ」
「今気付いたんですか」
一ノ瀬くんの方を見上げると、一ノ瀬くんはいつの間にかフォークにナポリタンを巻いて、それをこちらに向けていた。
「一ノ瀬くん、俺1回だけって……!」
「佐伯さんが俺に食べさせるのは、1回だけですよ」
「何ですかそれっ……」
早く、と言わんばかりに向けてくるフォークに耐え切れなくなり、俺は即座にナポリタンを口に入れた。
しかも、一ノ瀬くんが使ったフォーク。
「美味しいですか」
「……美味しいです」
これじゃあまるで、恋人みたいじゃないか。
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