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⑦
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ゆっくりとアームが上がっていく。
アームが掴んでいるのは、小さめのうさぎのぬいぐるみ。
ボタンを押して操作しているのは一ノ瀬くんだが、こっちまでドキドキしてしまう。
「おぉ……」
見事に受け取り口に景品が落ちると、俺は思わず感嘆の声を上げた。
この前にも、一ノ瀬くんは別の色のうさぎを取っていたから、一応お揃いってことになる。
俺のが今取ったピンクで、一ノ瀬くんがブラウン。
「はい」
「ありがとうございます」
女の子みたいなものだけど、嬉しかった。
どうしてこんなに恋人みたいなことをするんだろう、と困惑することもあるけど、それもそれで楽しい。
「じゃあ次はあれです」
そして、あれ、と一ノ瀬くんが指差したのは、布で中が隠されたゲーム機械だった。いわゆるシューティングゲーム。
しかし、それには無数のおぞましいゾンビのイラストが描かれていた。
「あれって…」
「ゾンビを倒すゲームです」
なぜこういう時に限って真顔で言うんだ。
一ノ瀬くんは俺に拒否させる暇も与えず、手首を掴んで連れて行かれた。
「…苦手ですか、こういうの」
「苦手と言うか……まぁ怖いのはちょっと…」
そんなことを言っても、一ノ瀬くんが引き返す気は全然無くて。結局は中に入らされる。
「1回1人100円です」
一ノ瀬くんは椅子に座り、慣れたようにお金を入れる。
「やったことあるんですか」
「はい」
次に、座席の横にある3Dメガネを掛ける。俺は一ノ瀬くんの順を追って、同じく始める準備をした。
「この人差し指のところのボタンを押して、ゾンビを撃ち倒します」
一ノ瀬くんの真似をして、銃型のリモコンを握る。
すると、突然画面の映像が転換した。どうやらステージを選べるらしい。
「どれがいいですか」
「えぇ……」
別にどれを選んだって、ゾンビに襲われることは確定事項だ。俺にとっては、どこでも同じな感じがするが。
「どれでも…」
「じゃあ無難にここですね」
一ノ瀬くんが選んだのは、研究室とやらの名目のステージ。
始まると、ゲームの主人公目線なのか、数度周囲に視線を向ける。
──あ゛ア゛ア゛ア゛ぁ……!
「ぅえ!」
だが、心の準備をする間でも無く、ゾンビは突然やって来た。一ノ瀬くんに不意打ちをくらう様子は無く、すぐさま弾丸を放つ。
「佐伯さん、撃たないと死にますよ。ちなみに、二人で標準を合せて撃つと攻撃力が上がります」
一ノ瀬くんの手元と画面の強烈さにそぐわない口調で説明される。
俺はもう諦めて、画面と向き合った。
「………」
「うっ、無理!」
「…………」
「わ、あぅ、嘘!?」
「……………」
「これ死にます!」
「………………」
「あ、ちょ、もう駄目ですよ!」
「…………………」
「……死にました」
序盤でライフが無くなった俺は、戦場から離脱する。一ノ瀬くんとの実力の差はすぐに明らかだった。
その一ノ瀬くんは顔色も変えず、ただ淡々とゾンビを撃ち殺していく。
無表情だけど、何か楽しんでるな、というのは見て取れた。
(…こういうのが好きなのか)
また、一ノ瀬くんの新しい一面が知れたような気がした。
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