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④
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「はっ、はぁぁ…ッ」
過呼吸なのか息切れなのかも分からなくなる程走った後、我に返った俺はピタリと足を止めた。
雨は降り止むことを知らない。
(嫌だよ……)
どうしてあの男がここにいるの?
大学を卒業して、引っ越したのに。
怖い。また……
「はぁっ、ぅ…」
記憶がフラッシュバックする。
次第に吐き気がしてきた。
「も…やだ……」
俺は雨降る中、身体を抱えてうずくまる。
一ノ瀬くん、どこにいるの?
会いたい。大丈夫ですって、言って欲しい。
「一ノ瀬くん…」
名前を呼んだって一ノ瀬くんは来てくれない。
分かってるけど、そうでもしないと気が可怪しくなりそうだった。
「助けて……」
すると、水の飛び散る音がこちらに近付いて来た。
走って来る音。
誰?
「…佐伯さん!」
「やだっ」
ビクッと肩を跳ねさせ、声の方を振り向く。
だけど、それはあの男じゃなかった。
「一ノ瀬くん……」
そこにいたのは、紛れも無く一ノ瀬くんで。驚いたようにこっちを見ている。
だけど俺は、無意識に一ノ瀬くんの胸へと駆けた。
「佐伯さん……」
一ノ瀬くんは、傘を放り出して俺を抱き締めてくれる。その途端に安心して、俺は声を出して泣いた。
「うぁぁ、ぁっ…」
怖かった。すごく怖かった。
もう一ノ瀬くん、来てくれないのかと思って不安になった。
それでも、一ノ瀬くんは来てくれるから。
それが、すごく嬉しかった。
一ノ瀬くんの温かさに甘えてもいいかな。
ずっと、近くにいたいと思うのは変?
「うぅ……一ノ瀬っ、く…」
「はい。俺がいるので、もう大丈夫です」
一ノ瀬くんが背中を擦ってくれるから、雨の冷たさなんて忘れそうになる。
温かい。
「…っもう少し、だけ……」
俺は、一ノ瀬くんの背中にしがみついた。
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