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⑦
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2皿分ナポリタンを盛って、それをリビングまで運んだ。一ノ瀬くんの家のキッチンはリビングと同じ部屋にあるから、すぐそこまで。
一ノ瀬くんは俺に気を遣ってくれたのか、キッチンには背を向けて座ってくれていた。ずっと見られていても、やり難いし。
「…すみません、遅くなりました」
皿をテーブルに置いてから、一ノ瀬くんの正面に座る。
俺の作る料理なんて、ほとんどが本を見て覚えたものだから、味は無難だしお店みたいに特別感も無い。
「あんまり美味しくなかったら、食べなくても大丈夫です…」
「佐伯さんが作ってくれたなら、何でも美味しいですよ」
そんな訳無い。誇張し過ぎだ、と思いつつもそれが嬉しくて、思わず頬が緩んだ。
「…そんなこと言ってないで、はやく食べてください」
「はい」
一ノ瀬くんはフォークにパスタを巻いて、口に運んだ。反応が気になって、その様子を凝視してしまう。
「…美味しい、ですか?」
「美味しいですよ」
一ノ瀬くんが、また次にフォークを伸ばす。俺の不安なんて吹き飛ぶくらいに嬉しい言葉だった。
「そうですか…」
すると、一ノ瀬くんが食べると思っていた1口が、俺に向けられる。
「…誰もいないので、いいですよね」
「え……」
俺は戸惑った。
あの時は人がいるから嫌だと思ったけど、二人きりでも恥ずかしいことには変わらない。
一ノ瀬くんの視線から逃れたくなる。
「…食べてるもの一緒じゃないですか」
「中身じゃありません。この行為に意味があるんです」
何の意味があるんだ。
そんなことを聞ける訳も無く、俺はおずおずと口を開いて一ノ瀬くんに近寄った。
「…なーんて」
「な……?」
しかし、一ノ瀬くんは俺が食べる直前にフォークを引き、キスをしてきた。
俺は増々困惑して、目を見開く。
一ノ瀬くんはこれが狙いだった訳か。
「…はい、どうぞ」
唇を離し、一ノ瀬くんはもう一度俺にフォークを向ける。
俺はもう騙されないよう、慎重に口を付けた。
「美味しいですね」
(…答えてやらない)
俺はプイッと、そっぽを向いた。
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