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その次の日、世良さんに本当のことを言ってしまったことを一ノ瀬くんに詫びようと、俺は決意した。昨日はなかなか言い出しにくくて、言えなかったから。
まぁ、そんなことを言わなくても世良さんにバレていた訳なのだけれども。
ただ、秘密を話してしまったという行為そのものが、謝罪の必要があるものだと思った。
「……一ノ瀬くん」
昼の休憩時間が少し過ぎて一ノ瀬くんがパソコンから目を離した時、俺は一ノ瀬くんに声を掛けた。
「どうしましたか」
俺の表情を汲んだのか、一ノ瀬くんは心配げにこちらを向く。裏切るようなことをしたのは俺なのに。
「…廊下に出てくれますか」
不思議そうにしながらも、一ノ瀬くんは頷いた。
あまり人目の付かない辺りの廊下へ出ると、俺と一ノ瀬くんは壁際に寄る。
「大事な話ですか」
「大事というか、謝りたいことがあります……」
一ノ瀬くんには当然思い当たる節などないので、まだ釈然としていないようだ。
俺は、ふぅと1つ息を吐き、鼓動を抑える。
「…一ノ瀬くん、ごめんなさい」
俺の為にしてくれたのに俺が秘密をばらしてしまうなんて、一ノ瀬くんはどう思うのだろうか。俺は結構、一ノ瀬くんに甘え過ぎているのかもしれない。
もう少しわきまえないとな。
「…あの、一ノ瀬くんと俺って、世良さんの前では……というか、付き合ってるっていう嘘吐いてたじゃないですか」
「はい」
一ノ瀬くんは、真剣に俺の話を聞いてくれていた。それが逆に、話し難くなる。
「それで……昨日、付き合ってることが嘘だって、世良さんに言ってしまいました……」
言ってから、俺は視線を下に逸らす。
「でも、世良さんはもう気付いていたらしくて……」
何の言い訳にもならないことを口にする。寧ろ言い訳なんかして、後ろめたさを感じてしまった。
これだと、俺が俺自身をフォローしているみたいでカッコがつかない。
(ごめんなさい……)
俺は、心の中で何度か謝った。
すると一ノ瀬くんは俺の前にしゃがみ込み、俺の顔を見上げる。そこまでされたら、顔を背ける訳にはいかなかった。
「いいですよ。佐伯さんのことですから、何か理由があるんですよね」
理由は、ある。
だけど、結論だけを先に言ってしまうと、全てが後付けの言い訳にしか聞こえないのではないだろうか。
でも、そう思われても仕方の無いことなのかもしれない。
「言い訳……にしか聞こえないと思いますけど…」
小さな声で言うと、一ノ瀬くんは首を横に振った。
「佐伯さんが下手な言い訳なんて言う訳無いですから。ちゃんとした理由ですよね」
一ノ瀬くんなら、どんな理由であれ受け止めてくれる。笑ったり、拒否したりしない。
そう思って、俺は控えめに話した。
「…一ノ瀬くんは本気で俺の事好きだって言ってくれてるのに、嘘で付き合うのが申し訳無く思ったんです。だから、もし一ノ瀬くんと付き合う時は、俺も一ノ瀬くんが好きって言える状態で…付き合いたいって……」
その時、
「そういうこと言うと」
「…っ!」
不意に両手を掴まれた。
一瞬だけビクリとしてしまうが、その後は落ち着いて一ノ瀬くんの顔を見る。
「…俺、期待しちゃいますよ?」
「いちっ…」
一ノ瀬くんの唇が接近してきて、俺は咄嗟に手で口元を隠した。最近、一ノ瀬くんとの関わりが深過ぎて、時々こうやって困ってしまう。
「…ここ、一応会社ですよ……」
人がいないか周りを見ながら、注意する。だけど嫌だった訳では無いから、強くは言えなかった。
「佐伯さんの中に、俺の事を好きになってくれる可能性があるってことですか」
立ち上がった一ノ瀬くんに問い掛けられる。
「それは…」
可能性があるか無いかと言ったら、限りなくあるの方に近いのかもしれない。
そうじゃなければ、今までの一ノ瀬くんの接触は拒んでいたし、関係が崩れようとも気にしなかったはずだ。
それとも、その時に感じた感情こそが、好きだということなのだろうか。
色々と曖昧過ぎてはっきり好きとまでは言えないけど、それでも好きになる可能性は十二分にあった。
「……ありま、す…」
なんだかこれじゃあ、すごく上から目線だ。だから俺は、語尾を落として答えた。
一ノ瀬くんは表情を変え、普段は見せない笑顔を顔に作る。
「嬉しいです、佐伯さん。ありがとうございます」
「いえ……」
恋愛とか。ましてや男との恋なんて訳も分からないけど、とにかく今は、この一ノ瀬くんの笑顔が見れるだけで、俺は十分だった。
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