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異変①
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俺は会社の人に怪しまれないように、次の日はちゃんと出勤することにした。勿論、警察なんかには行っていない。
昨日は帰った後、前と同じような手順を追って、やっぱり最後には泣き崩れた。
泣いて泣いて、どうして俺なんだと、何度も思った。
(…目、腫れてないよな……)
鏡と対峙し、自分の顔を見詰める。
目はそれ程腫れてはいなかったが、問題は声と腰だった。
(喉痛い……)
叫び過ぎたのか何なのか、声は掠れていた。
風邪を引いたみたいに、喉が痛む。
そして腰は、気を抜くとガクンと崩れ落ちてしまいそうに不安定な状態で。湿布なんか貼っても、効いている様子は無い。
(仕方無いか…)
俺は重い足取りで家を出た。
▽ ▽ ▽
会社に着くと、俺は一呼吸置いてから部署の扉を開ける。無断欠勤なんて初めてだから、部長に叱られるだろうか。
「…おはようございます」
部長の来る時間に合わせて来たから、いつもより結構人は多い。
俺は真っ先に部長のいるデスクへと向かった。
「おはようございます、篠原部長」
まずは怒号が飛んでくるものだと覚悟したのだが、部長はそれとは反対に安堵の表情で笑う。
「いやぁ、良かったよ。佐伯くんが来ないから皆心配してね」
部長は怒っていないようだが、常識として俺は深々と頭を下げた。どっちにしても、俺が皆に迷惑を掛けてしまったことには変わらない。
「本当に、申し訳ありませんでした」
こんな風に部長に謝るなんて初めてかもしれない。
「あーいいよ。今日からもしっかり働いてくれれば問題無いしね。それよりも…」
ふと頭を上げると、部長は不思議そうに俺の顔を見ていた。
「声、大丈夫?風邪でも引いたのかい?」
「え……」
やっぱりこんな声してると、そう思われるのか。
色々言い訳するのも面倒だから、俺は風邪だということにしておいた。
「…そうです」
「そうか。お大事にね」
「はい、お気遣いありがとうございます」
軽く頭を垂れてから、俺は自身のデスクへと向かった。生駒さんが小走りに駆け寄ってきて、心配そうに俺を見詰める。
「何があったのか私には分かりませんが、とりあえず大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ」
とりあえずって何だよ、と笑いそうになって、俺は控えめに微笑んだ。本当に生駒さんは社内のムードメーカーに相応しい。
「あんまり無理しないでくださいね」
「そうですよ!」
早坂さんにまで心配される。
普段は人の心配などほとんどしない人なのに。
「やっぱり疲れてたんですかね」
「しっかり休んでくださいよ!」
まだ作業の途中だったのか、生駒さんはそう残して元の場所へと戻って行った。
その後で一ノ瀬くんに視線だけを向ける。
一ノ瀬くんはそれに気付いたのか、こっちを見てから付箋に何かを書き出した。
(何だろう……)
そしてそれを俺の方のデスクに貼る為に、一ノ瀬くんがこちらに身を乗り出す。
「…っ……」
「あ、すみません」
反射的に身体を逸らしてしまい、一ノ瀬くんがすぐに手を引く。
「いえ……」
駄目だなぁ、たった2時間くらいでビクビクし過ぎだ。一ノ瀬くんは全然悪い人じゃないのに。
「………」
俺はデスクに貼られた付箋に視線を落とす。
『定時後、少し残ってください。』
急いで書いたような字だ。だけど、結構字は上手だな、と思う。
それを見て一ノ瀬くんに目を向けるが、一ノ瀬くんはもうパソコンに向かい合っていて。
話し掛けようとしたが、世良さんがこっちに来たから止めた。
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