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心臓を射抜かれたような気分だった。
苦しくて、息が切れそうになる。
「いつもの佐伯さんなら、こんなに拒絶しません。それに、よそよそしくて他人行儀みたいな態度でした。
会ったばかりの時……までとは言いませんが、それくらい俺のこと拒絶してますよね」
俺を責めるような言い方ではなくて、あくまでも確認するみたいな口振りだ。
だから、何も言い訳が出来ない。
下手な嘘は簡単に見抜かれる。
でも黙っている訳にもいかなくて、俺はただ俯いていた。
(何て言えばいい……?)
どれだけ頭を回転させても、機転の利いた言葉は浮かんでこなくて。
「違う……」
もう全てを吐き出して縋り付いて楽になりたい。
俺を締め付ける過去からも、現在からも、全部から開放してほしい。
助けて。
そう言えたら、どれだけ肩の荷が下りることだろうか。
だけどそれが出来ないから。
俺は大した言葉も言えない。
「…拒絶、とかじゃなくて……」
いや、実際に俺のしていたことは拒絶なんだろうけど。全然うまく言葉を紡げない。
すると一ノ瀬くんは椅子から立ち上がり、俺の言う先を塞いだ。
「言いたくないんですね」
嫌だ。気付いて。
言いたくないのもそうだけど、言えないんだよ。
助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。
「…………」
心中の叫びが言葉になることはなくて、俺はひたすら顔を逸らして一ノ瀬くんから逃げた。
「……でも」
一ノ瀬くんは俺の前にしゃがむと、顔を見上げてくる。俺は視線から逃れられなくなって、一ノ瀬くんの目を見た。
「佐伯さんがそんなに泣きそうな顔してるなら、俺が助けてあげますから」
(どうして……)
こんなに秘密にしていることばかりなのに、どうしてそこまで優しくしてくれるの?
その優しさが辛いよ。
もしあいつ等に抵抗して一ノ瀬くんが傷付くのは嫌だ。だから行かないで。何もしなくていいから。
「っ……」
そう思うのに止めてと言えない自分の弱さに悔しくなった。卑怯……だと思った。
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