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助けて①
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翌日も、何とか重怠い身体を起こし、会社に出勤した。
怪しまれないように。疑われないように。それだけ意識して生活すればいい。
「…おはようございます」
オフィスへ入ると一ノ瀬くんの姿があって、俺は思わず縋りそうになる気持ちを押し殺す。
姿を見つけただけで安堵してしまうなんて、やっぱりどうも可笑しい。
絶対に助けは乞わない。
今日、あと1日だけ行けばもう終わりなんだから。
「おはようございます、佐伯さん」
一ノ瀬くんに呼ばれる名前がやけに心地良くて、俺は胸が締め付けられる思いだった。
お願いだから、今日だけはあんまり優しくしないで。
そう思った。
「おはよう、ございます……」
あまり一ノ瀬くんとは関わらないように、俺はすぐ仕事に取り掛かった。
▽ ▽ ▽
今日は必要最低限、一ノ瀬くんとは接さないようにして1日を過ごした。対して一ノ瀬くんも同じようにしてくれたけど、やっぱりどこか寂しくて。
(嫌われた、かな……)
不安になるけど、今はそれで良かった。
明日からはいつも通りに戻ればいい。
(行こう……)
遅れたら、あの人たちに何をされるか分かったもんじゃない。
俺はそそくさと帰りの支度を始めた。
早く一ノ瀬くんの近くから離れないと、俺は一ノ瀬くんに助けを求めてしまいそうで。
しかし、
「佐伯さん」
急に聞き馴染みのある声で名前を呼ばれ、顔を上げた。そこには案の定、一ノ瀬くんが立っていて。
「……なんですか」
俺はもう帰るという意思表示に、カバンを手に持った。
しかし、一ノ瀬くんはそんなことも気にせずに、無言で俺の手首を取る。
「…一ノ瀬くん?」
「佐伯さんは嘘吐きです。だから、全部話してもらいます」
真っ直ぐに目を見られ、一ノ瀬くんはそう言った。
果たして、一ノ瀬くんは俺のどこまでを疑っているのだろうか。
嫌われたくない。でも全てを言ってしまいたい。
俺は自分の中で葛藤した。
もしかしたら、真実を隠している方が一ノ瀬くんに嫌われるんじゃないか。そう思っても、俺が苦しさから逃げたいだけの言い訳にしか聞こえない。
(どうしたらいいの……)
どうすることが正解なのか分からなかった。
俺が話してしまうことで一ノ瀬くんが傷付くのなら、もう俺は一ノ瀬くんに関わる資格も無い。
それだけは嫌だった。
やっぱり、俺は一ノ瀬くんに嫌われたくなくて。
「……嫌です」
俯きながらも、俺はきっぱりと断った。
言ったら、俺は多分一生後悔する。
一時の、そのせいで一ノ瀬くんとの関係を壊したくは無かった。
「佐伯さん」
一ノ瀬くんの口調が僅かに強くなり、俺はビクリとしてしまう。これだから怪しまれるんだ。
「とりあえず、別室に来てください」
手首を掴まれたままじゃ、どうすることも出来ない。俺は半ば強引に、一ノ瀬くんに腕を引かれた。
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