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「今日だけ、お願いです……俺に関わらないで……」
なぜだが、だんだんと視界が歪んでくる。
1つ瞬きをすると、左からは温かいものが零れ落ちた。
それは、強くカバンを握り締める俺の手の甲に水面を作って。
(もう嫌だ……)
本当は、関わらないで、なんて言いたくない。
気に掛けてくれるのも、心配してくれるのも、すごく嬉しい。
だけど、だからこそ今は突き放さなければならなかった。縋ったら駄目。迷惑を掛けたら駄目。
そう思うと、こんな酷い言葉しか出てこなかった。
「ごめんなさいっ……でも、話したくないんです…っ……」
こんなにも俺のことを考えてくれている人に対して言っていい言葉じゃない。
それは分かってはいるけど、今更軌道修正なんかは利かないから。
もう無理にでも一ノ瀬くんを遠ざけるしかなかった。
「……分かりました」
「……っ…?」
素直な承諾に、俺の心臓はドキリと弾む。
本当に突き放されるのかと思うと、言っていることとは裏腹に心が苦しくなった。
「だけど……」
思わず、待って、と口走りそうになる前に、ふと一ノ瀬くんの腕の中に抱えられる。
「……何ですか……」
これは、一ノ瀬くんの胸を押し返すべき?それとも、大人しく抱かれているべき?
(そんなの……)
そんなのは分かってるんだ。
一ノ瀬くんから離れないといけない。
頭では理解していても、身体が言うことを聞いてくれなかった。
いや、
(……違う)
聞かないんじゃくて、聞きたくないんだ。
どれだけ疚しいんだろう。
関わらないでだなんて上辺だけ。
心の中では一緒にいて欲しいと、行くなって止めて欲しいと思っているみたいで。
「……泣きながらそんなことを言われたって、手放せる訳が無いですよ」
(嫌だよ……)
また。またそうやって優しい言葉を掛けてくるから。
一ノ瀬くんの背中に手を回しそうになって、俺は腕に力を込めた。指先が伸びたまま停止し、そしてゆっくりと腕を下ろす。
「……やめて、ください……っ」
そう言ったはずなのに、一ノ瀬くんは更に強く抱き締めてきて。
力が及ばないなどと自分に言い訳して、俺は抵抗しなかった。
(分からない……)
離れたくない。ずっとこのままでいたい。
だけど、今の俺にはそれすら許されないんだ。
それなのに、一ノ瀬くんの言葉に甘えたくなる。
駄目だ駄目だと自分に言い聞かせても、それにも歯止めが利かなくなりそうで。
正直になっていいの?
何も分からないのに、涙ばかりが溢れてくる。
ただひたすらに、苦しい。
助けてよ、一ノ瀬くん……
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