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④
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嫌な言葉も言ったはずなのに、それなのに抱かれていることが苦しくて。だけどそれでも俺は、一ノ瀬くんを否定できずにいた。
ずっとこうやって、温かいままでいたい。
ずっと一ノ瀬くんの側にいたくて、もうどうしようもなくなってくる。
(どうしよう……)
離れなきゃって思う度に、寧ろ離れたくなくなって。まだもう少し、なんて甘えも見え隠れした。
一ノ瀬くんは、俺を逃さまいと、強く腕の中に俺を抱え込む。
「……佐伯さん」
「っ……」
あんまり名前を呼ばれると、気持ちが傾きそうになる。素直に全てを吐き出したくなってしまう。
俺は耳を塞ぎたい気持ちになった。
(何も言わないで……)
これ以上は、本当に気持ちが崩れるから。
一ノ瀬くんに嫌な思いをさせてしまうから。
「聞きたくない……」
こんな消え入るような言葉も、一ノ瀬くんには聞こえただろう。だけど、一ノ瀬くんはまるで聞いていなかったかのように話を続けた。
「…俺に話せないって、それだけ俺が頼りないってことですか」
「………」
「俺に話すってことは、佐伯さんが苦しむことになりますか」
「…………」
「どうして話してくれないのか、理由だけでも教えてくれませんか……」
「………………」
何も答えない俺に、一ノ瀬くんは何度か質問を繰り返した。
しかし、最後には語尾も弱いものになる。
俺は一ノ瀬くんに言うべき言葉も見当たらず、ただただ黙り込んだ。
正直に話せることなら、とっくに話しているだろう。それに、俺が話すことで俺が苦しむだなんて、そんなことは全く有り得ない。
俺だって、全部言ってしまいたい。全部全部曝け出して楽になりたい。
だけど、そうすることで一ノ瀬くんが傷付くって分かっても、一ノ瀬くんはそれごと許してしまうでしょう?
それが嫌なんだよ。
「……だって、それは一ノ瀬くんを傷付けることになりますよ……?」
「そんなの、全然構いません」
(……ほら)
そういうのが嫌だ。
何でも俺を中心に考える一ノ瀬くんが、嫌。
その返事が返ってくると思ったから、言いたくなかったんだ。
俺の為なら傷付いてもいいなんて考えの一ノ瀬くんだから。
「…っそういうのが、嫌、なんですっ……俺は一ノ瀬くんを大切にしたいと思う、けど…っ……一ノ瀬くんがそう言うなら、意味無い……!」
俺のことが好きだというなら、一ノ瀬くんも自分自身を大切にして欲しい。
それが出来ないなら、俺は一生、一ノ瀬くんに助けなんて求めない。一ノ瀬くんが犠牲になってまで、俺は助かりたいとは思わない。
俺だけが幸せになったって、そんなのは本当の幸せなんかじゃない。一ノ瀬くんの犠牲の上で成り立つ平和なんて望んでいないんだ。
お願いだから、俺の為になら自分がどうなったっていいだなんて思わないで。
そんなのは、俺だって苦しいよ。
「……言わないでよ……」
我儘ばっかり言ってごめんなさい。
こんな俺でも、まだ好きだって言ってくれる?
嫌いにならないで。
(一ノ瀬くん……)
「……すみません」
一ノ瀬くんは、申し訳なさそうに謝った。
「もし、俺に佐伯さんを助ける資格が無いと思うのなら、それははっきり拒否してくれて構いません。今日はもう、関わらないようにします」
だけど、と、一ノ瀬くんは俺の顔を見た。
その表情はどこか切なげで、俺まで悲しくなる。
「だけどそれまでは、俺に佐伯さんを助けさせてくれませんか」
(…どうして……)
一度拒絶された人に、ここまで優しくするのだろう。それは、一ノ瀬くんの好きな人が俺だから?
どうしてそこまでして、俺なんかを助けようとするの?俺は、一ノ瀬くんに何もしてあげられてないのに。
ただの優しさなの?
俺だけが特別?
どんな理由にせよ、こんなの、断る理由が無い。
「……一ノ瀬くんは、ずるいです……」
ギリギリ、破裂寸前まで溜まり込んでいた言葉は遂に耐え切れなくなり、俺は涙と共に全てを一ノ瀬くんへとぶつけた。
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