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⑤
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「ごめんなさい……」
全てを一ノ瀬くんに話した後、俺は誰に言うでもなくその言葉が口をついた。
これを言ってしまえば、一ノ瀬くんがどういう行動を取るかなんて分かっている。きっと、すごく辛い思いをさせてしまうだろう。
それなのに、俺は話した。全部、晒け出したいことを全て。
一ノ瀬くんが傷付くなら、それは何もかも俺が悪い。
だって、一ノ瀬くんはこんなに俺のことを大切にしてくれるのに。
助けあげるだなんて言われたら、そんなの拒否できる訳が無いじゃないか。
甘やかされたら、すぐに気持ちは崩壊した。
そうなることを分かっていて、一ノ瀬くんはあんなことを言ったんじゃないの?
(ごめんなさい……)
一ノ瀬くんよりも自分の気持ちを優先させてしまったことに嫌気が差し、自分で自分のことが嫌になる。
どうしてこうも気持ちは抑えられないのか。
優しい言葉を掛けてもらった瞬間、俺はまるでダムが決壊したような感覚に陥った。
そんな自分が悔しくて、嫌で、俺は強く拳を握り締めた。
「……お願いだから、俺の為に無理はしないでください……っ」
床に落とした視線を上げることは出来ず、俺はひたすらに嗚咽を漏らす。
瞳から流れる涙は何度か下に零れた。
すると一ノ瀬くんは俺の視界に入るようにしゃがみ込んで、そっとこちらに手を伸ばしてくる。
「佐伯さんが謝ることなんて何も無いです」
目元に触れた指先は、俺の涙を掬った。
「本当に苦しくて傷付いているのは佐伯さんなんですから。無理に強がる必要なんてありません」
(どうしてなの……?)
違うよ。
俺が苦しくたって、それは一ノ瀬くんが同等の痛みを味わう理由にはならない。
俺は、ただ一ノ瀬くんを大切にしたいだけ。
それだけなのに、どうして俺は一ノ瀬くんを困らせてしまうの。
(分からない……)
俺はどうしたら、一ノ瀬くんにもらった分だけの幸せを、一ノ瀬くんに返せるのだろう。
もう、愛されるだけは辛い。
「……だから、もっとたくさん、俺だけに甘えてください」
「…っ……」
一ノ瀬くんは、俺の震える唇を塞いだ。
触れるだけの口付けは、俺の抵抗を打ち消すに十分だった。
(駄目、なのに……)
もう無理だよ。耐えられない。
甘やかすような言葉を言われる度に、今日の我慢が馬鹿みたいに解けてしまう。
既に自制なんて利かなくなっていた。
一ノ瀬くんに寄り掛かって、楽になってもいいかな。
「佐伯さん、俺にどうして欲しいですか」
(……本当に、俺は弱い奴だ)
一ノ瀬くんに全てを預けてしまいたくなる。
「…助けて、一ノ瀬くん……」
掠れた声は、虚しく俺の中で反響した。
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