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一緒にいたい①
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時折一ノ瀬くんに背中を擦ってもらいながら、俺は給湯室を後にした。そして、荷物を取りに企画部の部署まで戻る。
今の今まで泣いていたなんて恥ずかしくて、俺は顔を伏せながら歩く。
(泣き止め……)
しゃくり上げそうになる度、俺は大きく息を吸ってそれを誤魔化した。
涙は止まっても、後遺症のように何度も息がつっかえる。
「……大丈夫ですか」
いつ呼吸が乱れるかも分からないから、俺は頷くだけにした。
▽ ▽ ▽
その後、会社を出て外に来る。
建物を出てすぐに世良さんの姿があった。
「……やっと来たかぁ」
俺と一ノ瀬くんに気付いたらしい世良さんは、手持ちぶたさに使用していたスマホをポケットに仕舞い、こちらを振り向いた。
「何してたの?」
世良さんの言葉で、さっきまでの緊張感は崩れ去る。
俺は咄嗟に顔を隠した。
(見られたくない……!)
しかし、そんな思いも虚しく世良さんに目を付けられる。
「あれ、陽裕くん泣いてた?」
「………」
的確な指摘に、俺は何も言えなくなった。
否定も肯定も出来ない。
世良さんは、俺が困るということを知ってて言っているのだろうか。
「すみません、何か用ですか」
そんな俺をフォローするように言葉を返してくれる一ノ瀬くん。
世良さんはにこりと笑みを見せ、首を傾げた。
「オレが何も気付かない訳が無いでしょ」
どういうことだ、と問い掛ける前に、世良さんはカバンから数枚の紙を取り出す。よく分からないまま、手渡されたそれに目を通した。
(何?)
隣から一ノ瀬くんも覗き込んでくる。
まずいちばん初めに目に飛び込んできたものは、印刷された写真だった。
考えるよりも先に、その人物が神代だということを理解する。
(どうして……?)
そこから残りの資料の文字を追う。
名前、誕生日、年齢、血液型なんて基本的な情報から、住所、学歴、職業、家族構成、交遊関係まで、そこには様々なものが載っていた。
俺は資料に目を落としたまま停止する。
「……最近、陽裕くんの様子が変だったからさぁ」
色々調べてみた、と世良さんは笑った。
「そしたら過去に陽裕くんが強姦されていたって知ってね」
俺が神代について知っていることに関しては、世良さんが作った資料と何も違わない。
果たして、俺の過去はどこから漏れていたのだろうか。
「…この人が、佐伯さんの言う神代ですか」
「そうです……」
一通りは読み終え、紙は世良さんに返した。
いつから情報収集をしていたのかは分からないが、少なくとも5日以内から調べ始めたに違いない。そう考えると、純粋にすごいと思った。
「今からその子のところに行くんだよね」
確認をするように、世良さんに聞かれる。
多分そうだと思うから、俺は控え目に頷いた。本当は行きたくなんかない。
何なら、もう二度と顔も見たくない。
「何する気ですか」
「やだなぁ、少しでも手助けをしたいんだって」
そう言う世良さんに、一ノ瀬くんは明らかに疑わしい目で見ている。
へらへらと笑っている世良さんだが、言っていることは本心だと思った。
「………」
ここ数日の世良さんは前までと違い、いい人に見えてきて困ってしまう。
それは、男性である一ノ瀬くんに慣れてきたからそう思うだけかもしれないが。
だけど、少しでも世良さんに油断を見せると何をされるか分からないから、多少の警戒は残る。
そして、一ノ瀬くんは何かを考えるように世良さんを見詰め、それから口を開いた。
「本当は、俺だけで佐伯さんを助けたかったんですけど……」
意外にも、世良さんと関わりながら、一ノ瀬くんに不快の色は無い。
世良さんに対する態度が変わったように見える。
「…助力お願いします」
その言葉に、
「了解」
世良さんは楽しそうに微笑んだ。
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