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世良さんは運転の免許証を持っているらしく、俺と一ノ瀬くんは世良さん所有の車へと乗り込んだ。
黒塗りの、割と大きめな車だ。
「ある程度把握はしてるけど、もし道間違ってたら言ってね」
「分かりました……」
早速世良さんは、慣れた手つきで車を発車させる。
景色は颯爽と移り変わっていく。
俺は神代の元へ行くと思うと今から緊張して、無意識のうちに肩を張った。
どうして俺がこんなことにならなきゃいけないの。
早く開放されたい。
(怖い……)
二人が助けてくれると言っているのに、申し訳ない感情だと思う。
これじゃあ、信頼し切れていないみたいだ。
だけど、何があっても神代に対する恐怖心は生涯無くならないんだ。
それだけ、神代という人物は俺にとっての障害でしかない。
男性恐怖症のきっかけ。
全ての原因。
怖い思い出。
神代には、全くいい印象が無かった。
神代に思う気持ちは、怖いの1択のみ。
顔を見るだけで、声を聞くだけで震えそうになる。
「……っ」
色々と嫌な思い出ばかりが脳内を巡り初め、俺は頭を振ってそれを払拭する。
(もう無理……)
すると、隣からは一ノ瀬くんの、心配そうな声が聞こえてきた。
▽ ▽ ▽
神代の家が近くなる度にだんだんと憂鬱となり、俺の表情は沈んでいった。
(嫌だ。行きたくない)
洸平と神代の真っ黒な笑顔が脳内に貼り付いて離れない。
神代の脅しの言葉に、話してしまったことを今更ながら後悔した。
一ノ瀬くんと世良さんがいてくれるという安心感の反面、神代たちに対する覚悟が緩んだ今、精神が不安定になって。
もう一度気持ちを立て直すことは難しい。
「…一ノ瀬くん……」
俺は、小さく名前を呼ぶ。
それだけで、何だか安堵したような気持ちになった。
一ノ瀬くんは俺の声にも気付いてくれて、こちらを振り向いてくれる。
「どうしましたか」
その声にも心が落ち着いて、俺はまた一ノ瀬くんに縋りそうになるのを堪えた。
グッと指先に力を込め、拳を作る。
「……何でも、ないです」
あんまり一ノ瀬くんを困らせてはいけない。
これでも、俺の方が年上なんだから。
そう思って、俺は何も無いように振る舞った。
一ノ瀬くんに頼りきりでは駄目。
好きだって言ってくれて。
何度も俺を助けてくれて。
俺の心を満たしてくれた。
だから、俺ばかりが与えられるだけでは……
しかしふと、一ノ瀬くんは俺の手の上に、自分の手のひらを重ねてくる。
「…不安ですか」
まるで見透かされたかのような言葉に、俺は思わず頭を振った。これ以上迷惑を掛けたくないという意識が、行動に反映される。
「大丈夫です」
「その割には、大丈夫って顔してませんけど」
一ノ瀬くんが苦笑顔を見せる。
だが、俺が何かを返す前に、車は停車したようだった。
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