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③
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車外に出ると、世良さんは車に鍵を掛けた。
何も臆せず、世良さんは俺の前をスタスタと進んで行く。一ノ瀬くんもそれについて行こうとするから、俺は咄嗟に腕を掴んで引き止めた。
「待って、ください…っ……」
一ノ瀬くんが足を止めるのに気付き、前を歩いていた世良さんも後ろを振り向く。
「…佐伯さん?」
いざ顔を見られると恥ずかしくて、俺は目を逸らした。
「あの、手……握っててもらえますか……?」
(…何言ってるんだろ)
手も足も全身が震えて、もうどうにかなりそうだった。
だけど、一ノ瀬くんに触れていると、なんだか安心出来るよう気がしたから。
さっきまであんなに否定していたのに、甘やかされるとその分だけ甘え、俺はなんて単純なのだろうと思う。
「………」
俺が黙っていると、一ノ瀬くんは無言で手を差し出してきた。
「どうぞ」
しかし、
「えー、オレじゃ駄目なの?」
なんて、水を差すように世良さんが言う。
その表情はいつも通りの笑顔で、特別残念がっているようでもなかった。
「…一ノ瀬くんがいいです……」
世良さんを選ぶと、絶対に調子に乗るから駄目だ。
それに、人の体温で落ち着けるのは一ノ瀬くんだけだったから。
「だそうなので」
「じゃー、次はオレだよね?」
(……うるさい)
俺は世良さんの言葉を無視して、一ノ瀬くんの大きな手を掴んだ。
▽ ▽ ▽
「…へぇ、結構いい家だねぇ」
(声が大きい)
別に隠れている訳では無かったが、何となくそう思ってしまう。無意識に息を殺して歩いた。
(…何を言われるんだろう……)
多分、俺以外の人が家に上がってきたことには気付いているはずだ。
こんなことをして、後からもっと酷いことをされたりしないだろうか。
一ノ瀬くんや世良さんに危害を加えられたら、それこそ耐えられるものじゃない。
今日で解決出来なかったら、後は俺だけでどうにかしよう。
今日以降まで二人に手間を掛けさせる訳にはいかない。
それに、俺以外の人が深く関わり過ぎると、神代が何をし出すか分からなかった。
どうしよう。
神代は一体これから、どんな反応を示すのか。
分からないことが、すごく怖かった。
(帰りたい……)
「…っ……?」
すると、何を口にした訳でも無いのに、一ノ瀬くんが強く手を握ってくれる。
顔を見上げると、一ノ瀬くんは控え目な声で、大丈夫です、と言ってくれた。
どうして一ノ瀬くんには、俺の気持ちがこんなにも全て伝わってしまうのだろうか。
「…陽裕くん、この部屋で合ってる?」
「はい……」
いつもの部屋の前まで来ると、世良さんは何の躊躇いも無くドアノブに手を掛けた。
(いる……)
やっぱり中からは複数人の話し声が聞こえる。
そして世良さんが扉を開けようとした時、
「お友達ですか?」
内側から、神代の声がした。
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