アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
⑥
-
早足で神代の家を出た俺は、やってしまったと我に返り、外で蹲った。
助けて欲しいと言っておきながら、一ノ瀬くんと世良さんに全て預けて出て来てしまった。
所謂、責任放棄。
これは俺だけの問題で、本当なら二人には関係無いんだ。それなのに、俺は二人に頼りきりで。
挙句の果てには、こうやって逃げてしまう。
(本当に、ごめんなさい……)
今はただ、謝罪の言葉しか見当たらなかった。
俺は一体、どこまで一ノ瀬くんを振り回せば気が済むのだろう。
迷惑を掛けたくないと思っておきながら、いちばん一ノ瀬くんを困らせているのは俺だ。
俺のせいで、一ノ瀬くんが酷い目に遭いそうになっている。
やっていることと思っていることが矛盾しているし、俺は一ノ瀬くん程完璧な人間じゃない。
このまま俺は一ノ瀬くんの側にいてもいいのかと、物凄い不安に駆られた。
(もう戻れない……)
いくら俺に一ノ瀬くんと一緒にいる資格が無いとしても、一ノ瀬くんがいない生活など考えられなかった。
もう、一ノ瀬くんと出会う前までの日常が思い出せない。
こんなふうに逃げて来て、俺はどんな顔して二人に会えばいいのだろうか。
そう思って顔を伏せているが、
「……佐伯さん」
やっぱり、予想通り。
大して時間も置かずに一ノ瀬くんはここまで来た。
俺は当然、顔なんて上げられる状態じゃなくて。
何も言えないまま、ただ膝を抱えているしかない。
(神代はどうなったんだろう……)
そう聞きたいけど、逃げ出して来た俺が問い掛けることもできなかった。
世良さんが対応してくれているのだろうか。
「…どうしたんですか」
「ごめんなさい……」
聞かれたことに対しての答えは適切じゃないかもしれないけど、今はそれしか出てこなかった。
今更、家の中になんて戻るなんてことはできない。
「あの部屋にいるのが苦しかったですか」
全部俺の責任なのに。
俺が悪いのに。
一ノ瀬くんは俺を気遣うように聞いてくる。
だけど、こういう時に何も言わない方が一ノ瀬くんを困らせてしまうと、俺は知っていた。
「…それも、ありますけど……」
「大丈夫です。何でも言ってください」
言葉に詰まる俺を、一ノ瀬くんの言葉が押してくれる。
その優しげな声は、一ノ瀬くんなら全てを受け入れてくれる、許してくれると、自分を自惚れさせてしまった。
「…もし俺が神代から開放されたら、次は俺の代わりに、誰かが苦しむことになるかもしれない……だから一ノ瀬くんは、神代たちを警察に突き出そう…って言ってくれましたけど……」
(俺は、こんなに汚かったんだ……)
それが一ノ瀬くんに知れてしまうのが嫌で、だけどどうしようもなくて続きが言えなかった。
俺の言葉を待っててくれている一ノ瀬くんが辛い。
こんなこと、言いたくない。
本当のことを言ったら、一ノ瀬くんはどうするの?
一ノ瀬くんに嫌われてしまうかも。
一ノ瀬くんが俺から離れていってしまうかも。
そう思うと胸が苦しくて、意志とは反し、涙が頬を伝った。
「…ゆっくりで大丈夫です」
一ノ瀬くんは、どこまで優しくしてくれるのだろう。今から話すことを聞いたら、俺のこと嫌いになる?
「でも俺……」
それだけは嫌だったけど、もう仕方が無い。
「…もう嫌だったんです……これ以上一ノ瀬くんに嫌な思いをさせるくらいなら、他の人が犠牲になってもいいって、思ってしまって……俺、別の人のことよりも、自分のこととか……一ノ瀬くんのことばかり優先して……他の人のことなんて、深く考えなかった…っ……自分本位、なんですっ……」
「………」
「俺は、一ノ瀬くんが思う程綺麗な人間じゃないんです……そういうことを平気で思ってしまうし、もう、身体も汚れています……俺と一緒にいると、一ノ瀬くんまで汚してしまう……」
「…………」
一ノ瀬くんは、なぜか黙り込んだ。
すぐに言葉を返してくれないと何を言われるのかが不安で、この沈黙が怖かった。
そういう人間だったんだ、と愛想を尽かされるのかもしれない。
そして、一ノ瀬くんとの関係はこれで終わってしまうのかもしれない。
だって、一ノ瀬くんは俺がこんな奴だったとは思っていなかったはずだ。
それなのに、中身はただの下衆で。
一体、どんな酷い返事が来るのか。
どんな言葉にも堪えられるように、俺はぎゅっと目を瞑り、身体に力を入れた。
(何か言ってよ……)
もう嫌われたって、それは俺が汚れているからで、一ノ瀬くんには何も責任は無い。
だから、何を言われたって、それを素直に受け止める気でいた。
「……それは」
やっと一ノ瀬くんが言葉を発する。
俺は、思わず身構えた。
「普通じゃないですか?」
(え……?)
しかし、思いもしなかった一ノ瀬くんの言葉に、俺は目を丸くして驚いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
96 / 331