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(可怪しい……)
1日が終わり、夕食を食べながらそんなことを思う。
視線の先の一ノ瀬くんは、いつもと変わらぬ表情でご飯を食べていた。
また、一ノ瀬くんが冷たい。
俺の勘違いかもしれないけど、一ノ瀬くんの今日行動に、そう感じたのだ。
そうなると、やっぱり不安に思ってしまい、食事も喉を通らない。これも、俺が原因なのだろうか。
前もだったけど、この態度の理由を、一ノ瀬くんは意図して言わない。
だから、自分で探るか、一ノ瀬くん本人に訳を問いただすしかなかった。
それ以前に、これは俺の勘違いであって欲しいのだが。
「……美味しいですか?」
「はい。佐伯さんの作るものは何でも」
何となく当たり障りのないことを聞いてみるが、一ノ瀬くんの答えは前の調子と何ら変わらない。
そうやって、わざと俺を困らせるようなことを言って。
どうやら、一ノ瀬くんは俺に触れることだけを自粛しているだけのようで、別に態度が変わった訳じゃないみたいだ。
会社でも必要以上に俺に近付くことはなかったし、それは、一ノ瀬くんが俺に好きだって言う前の関係に戻ったように思う。
俺に無理をさせないように、俺へ触れてこなかった一ノ瀬くんに逆戻り。
もしかして一ノ瀬くんはもう、俺に気が無くなった?
俺がいつまでも答えを出そうとしないから?
それは、嫌だ。
俺のことが好きだって言って。
何度も一ノ瀬くんの気持ちを断っておきながら勝手なことを思っているのは分かっている。
それでも、俺はまだ、一ノ瀬くんに好かれていたい。
一ノ瀬くんの"好き"でありたかった。
「一ノ瀬くん」
箸を止めて、再び一ノ瀬くんに声を掛ける。
一ノ瀬くんも視線を上げた。
「はい」
「一ノ瀬くんは、まだ俺のことが好きですか……?」
思ってもいなかったことに、一ノ瀬くんは少しだけ呼吸を止めた。俺も、何てことを聞いているんだろうと思い、声が小さくなる。
「その、疑ってるって訳じゃ無くて……」
俺が口籠ると、一ノ瀬くんは僅かに微笑んだ。
「なんですか、付き合ってくれるんですか」
(また……)
その言葉は返答に困ったが、昨日までの一ノ瀬くんと同じ態度で、心の中では安堵した。
嫌われてはいない。
前みたいに、俺を遠ざけようとしている訳でも無い。
それが分かっただけでも良かったと思う。
「…そういうこと言ってるんじゃないです……」
「分かってます」
一ノ瀬くんが楽しげに笑うから、俺は不安なんか忘れて肩の力が抜けた。
どうして俺はこんなに、一ノ瀬くんに嫌われたくないだなんて思うのだろう。
やっぱり、俺は俺自身が分からないんだ。
(分からないんです……)
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