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④
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俺は一ノ瀬くんに言うべき言葉も見つからず、ただただ喚いた。
取り乱しそうになる。
「…どうして、こういうことっ……!」
「今更ですか」
そう言う一ノ瀬くんの言葉が、胸に突き刺さった。
そりゃ、キスなら前までは何回かしていただろうけど、その時と今とじゃ俺の考えは違う。
一ノ瀬くんと親密になる程に気持ちは複雑になっていって、もう素直になんてなれなかった。
好きなんかじゃない。
好きになってはいけない。
今までに、そう、幾度となく自分に言い聞かせていた。
ただ、一ノ瀬くんの気持ちには応えようとしたけど、それはすごく難しくて、苦しい難題だった。
人に対してこんな気持ちになったのは初めてで、俺には分からないことばかりなんだ。
「だって、付き合ってもいないのにっ……キス、とか、前にやったこととか…っ……普通はやらないんです!」
前にやったこと。
そんなものは、思い出しただけでも恥ずかしくて泣きそうになる。
怖かった。怖かったけど、一ノ瀬くんを受け入れようとしている自分に混乱した。
「…変、なんですよ……っ」
言葉に詰まる。
何とか涙を流さないように堪えて、俺は拳を握った。
一ノ瀬くんの前で、泣きたくない。
「恋人でもないのに、こんなことしてっ、俺と一ノ瀬くんの関係って、何なんですかっ……?」
涙声で俺は問い掛ける。
こんなんだから、一ノ瀬くんを困らせてしまうんだ。
分かっているのに、言葉に歯止めは利かなくて。
(もう嫌だ……)
本当は、こんなことが言いたい訳じゃ無い。
だけど、付き合っていないのにキスしたりするのは嫌だったから。だって、それは神代たちと変わらない。
「どうして、恋人でもない俺に……っ触れようとするんですか……」
喉が痛んだ。
一ノ瀬くんはまた、困り顔で笑う。
嫌なことばかり言っているのに、どうして俺の心配なんかするんだよ。
「…俺に触られるのが嫌ですか」
(違う……)
そういうことじゃ無くて。
それなのに、何て言えばいいのか分からない。
今は、一ノ瀬くんを傷付けるような言葉しか出てこなかった。
ごめんなさい。
「…嫌、ですっ……も、やだ……これ以上、俺に触らないでください……!」
遂に耐え切れず、涙は頬を伝った。
酷いことを言ってるのは俺なのに泣くなんて、卑怯だと思う。
でも、意識とは反して身体は泣き止んでくれない。
「……佐伯さん」
(聞きたくない……)
こちらに伸びてくる手を払い、俺は服の袖で、グイッと涙を拭う。
駄目だった。
こんなに優しくされたら、一ノ瀬くんに気持ちが傾いてしまいそうになる。
だから、その前に一ノ瀬くんから逃げたかった。
嫌だ。
気付きたくない。
俺は、一ノ瀬くんのことなんて。
「…好きじゃない、です……」
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