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⑤
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夜が明け、日曜日を迎えた。
昨日はわざと遅くに帰って来たのだが、一ノ瀬くんの家の鍵は開いていて。
わざわざベッドを空けて一ノ瀬くんはソファに寝ていたけど、さすがにベッドは使えなくて、俺はテーブルに突っ伏して眠った。
「…佐伯さん、朝食出来てますので、着替えが終わったらリビングに来てください」
「はい……」
あんなことを言ったのに一ノ瀬くんは普通に接してくるから、俺は少し驚く。
俺が着替えている最中の寝室に入って来た一ノ瀬くんは、いつもと変わりない態度だった。
だけど俺は一ノ瀬くんと目を合わせることが出来なくて、顔を伏せたまま頷く。
(分からない……)
一ノ瀬くんのそういうところが、よく分からなかった。一ノ瀬くんは一体、何を考えているのだろうか。
俺は、何となく不安になる。
(嫌われた、かな……)
昨日のことを今更後悔したって、もう遅いんだ。
▽ ▽ ▽
リビングへ行くと、既にテーブルの上には朝食が並べられていた。
白米と味噌汁と、昨日の残りのおかずだろうか。
一ノ瀬くんは、パンなどの洋食的なものよりも、和食の方が好きなようだった。
一ノ瀬くんは作るものは和食ばかりなのだ。
「……一ノ瀬くん」
朝食を食べる前に、俺は座りながら名前を呼んだ。
一ノ瀬くんは箸を止め、こちらに目を向ける。
「はい」
その応え方も態度も、何も変わらなくて、俺は余計に話し難くなった。
でも、これからこの関係でいってしまったら、多分俺と一ノ瀬くんはお別れになるから。
こんなにモヤモヤした気持ちのまま、出会ったばかりの時のような関係に逆戻りしてしまう。
(そんなの……)
それだけは御免だ。
"分からないなら分からないでもいい。
気の利いた言葉じゃなくても、何か言ってあげな"
世良さんが言ってくれたその言葉を思い出し、俺は自身の手に力を込める。
俺が自分の気持ちをはぐらかす度に、俺は一ノ瀬くんを傷付けていた。それに気付いたから、俺はもう、嘘は吐かない。
そう決めたんだ。
「…あの、昨日は俺、一ノ瀬くんにすごく酷いことを言いました……許してくれとは言わないけど、それでも今は後悔してます。反省も、してます……」
俺は一ノ瀬くんの顔を見るのが怖くて、すぐに頭を下げた。
「本当に、ごめなさい」
今、一ノ瀬くんはどんな顔してる?
怒ってる?悲しんでる?呆れてる?
嫌な予想しか出来なくて、俺は不安だらけだった。
だから、顔をあげられない。
「…俺、一ノ瀬くんのことが好きだとかどうとか、よく分からないんです……でも、一ノ瀬くんに嫌われたくないっていうのは本心で…俺は、一ノ瀬くんに好かれていることが、すごく嬉しいんです」
一ノ瀬くんの言葉から逃げたくて、俺は顔すら見ずに話を続ける。
そんなのはずるいと思うけど、まだ心の準備が出来ていなかった。俺には、どんな言葉も受け止められる自信が無い。
一ノ瀬くんの言葉次第では、今にも表情が崩壊してしまいそうで。
「だから俺、確認したいんです」
俺は、そっと視線を上に上げた。
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