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帰ると言ったはずなのに、生駒さんが運転手の人に指定した場所は居酒屋だった。
生駒さんの家の近くまで行くのだろうか、などと思ったが、タクシーはその居酒屋の前で止まり、生駒さんは中へ入って行く。
(どうして……)
「佐伯さん、一緒に飲みましょー!」
入口付近で立ち止まる俺に、生駒さんが手招きする。外観からして明らかに賑やかそうな店で、俺には入り難かった。
「いや、でも俺、酒とか飲めないですし……」
「大丈夫ですよ!美味しい食べ物いっぱいありますから!」
こんなに楽しそうにする生駒さんの誘いを断ることは出来なくて、俺は重い足取りで中へと進んだ。
「いらっしゃいませー!」
(うわ……)
店内では案の定、多くの人が飲み食いをしていて、とても賑やかな場だった。
好きな人は好きなのだろうが、俺はあまり得意な雰囲気ではない。
それに、ここは男ばかりで、酷く居心地が悪かった。
(気持ち悪い……)
「こんばんはー」
「おう、玲乃ちゃんじゃないか!いらっしゃい!」
「会社帰りなんです。何か美味しいの作ってください!」
生駒さんはカウンター席に座りながら、強面な男性と仲良さ気に会話をする。
頭にタオルを巻いた男性は40代半ば程の見た目で、恐らくここの店主だと思われた。
俺は取っ付き難いな、と思いながら、生駒さんの隣に腰を下ろす。
「佐伯さん、ここの店主は、見た目は怖いですけど、料理は美味しいし優しい人なんですよ!」
「そうなんですか」
明らかに、生駒さんはこの居酒屋の常連客だ。
「さぁさぁ、何頼みますか?」
生駒さんは目線を上に上げる。
俺もそっちを向くと、メニューは全て手書きで、上に貼られていた。
(暑……)
俺がそう思っていると、生駒さんはすぐに注文をするようだった。
「おじさん!」
「はいよ!」
威勢の良い生駒さんの声に、先程の男性がこちらへ向かって来た。
その間に、俺はジャケットを脱いで、ワイシャツの上にベストの姿になる。ワイシャツにシミを付けないように、気をつけなければならない。
「生ビールと、ねぎまくださーい」
「いつも通りね!そっちの兄ちゃんは?」
「はい?」
突然話を振られ、俺は膝に手を置いたまま男性の顔を凝視する。
その見た目と声に、俺は恐怖を感じた。
これ以上は関わりたくないと、直感的に思ってしまう。
「注文、どうするんだ?」
「え?あぁ……」
(……やめよう)
俺は慌てて、視線をさっきのメニューへと向けた。
多くの料理名が目に飛び込んでくるが、迷っている余裕なんて無かった。
「えっと……」
短な声を出し、何とかこの場を凌ぐ。
「…水と、焼き鳥の皮お願いします」
「なんだい、そんなものでいいのかい?ビールもあるよ!」
自分の店の商品にそんなもの、なんて言うのかと思ったが、俺は余計なことは言わずに、大丈夫ですとだけ頷いた。
この瞬間に気疲れして、俺は溜息を吐く。
(疲れるな……)
しかし、本当の気疲れはここからだった。
「佐伯さん、聞いてくださいよ!」
「え……?」
先輩って、後輩の愚痴を聞いてやるもんなのか?
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