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④
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一ノ瀬くんは俺に近付かないから、俺は一ノ瀬くんに触れることが出来ない。
それでも、今日は一ノ瀬くんから触れてこないから、近付きたければ俺から近付くしかない。
このジレンマが目的だった。
この状況で、俺が一ノ瀬くんに触れたいと思うのかどうか、自分の気持ちを確かめる為にやってることだ。
それで、実際のところはどうなのかと言うと、これもやっぱり分からなくて。
そもそも、世良さんの言う"触れる"とは、どこまでのことを言うのか、今更になって考える。
手を繋ぐ。抱き締める。
なんてことは、まだ出来なくなもない。
だけど、キスだとかそれ以外のことだとか、そんなことになってくると、俺からしたいとは到底思えなかった。
(短い……)
明日には答えを出さなければいけないのに、俺はまだ本当の気持ちが分かっていない。
昼を迎え、俺は焦っていた。
「あー、佐伯さんいた!」
「?」
すると突然、慌てたように食堂に入って来ては、生駒さんがこちらに駆け寄って来る。
そして、それなりに息を切らし、俺の真ん前に座った。
俺の意識は、完全に生駒さんへと移る。
「…大丈夫ですか?」
「はい!」
乱れた髪を手櫛で整えながら、生駒さんは頷く。
ついでに、昼食を食べる手が止まっていたことにも気が付いた。
「それでですね、昨日のことなのですが……」
息が落ち着いてくると、生駒さんは姿勢を正して座り直した。何だか申し訳無さそうな表情をしている。
「はい」
「私、すごく佐伯さんに失礼なことをしたと思うんですけど、よく覚えてなくて……昨日、電話でも謝れなくて……それで、えっと……」
「………」
言葉の選び方に迷っているのだろうか。
と言うかまず、昨日のあんな状態で電話なんかされても、余計に失礼なことしか起こさなかっただろうな。
俺が介抱してあげましたよ、とはさすがに言えなくて、俺はとりあえず黙る。
生駒さんは、酔い過ぎると前日のことを忘れてしまうタチなのか。
「なので、今度ちゃとお詫びします……本当にすみませんでした!」
そう言って、生駒さんは頭を下げた。
その声が大きくて、俺は思わず立ち上がる。
「あ、大丈夫ですからっ」
「え?そうですか……」
周りの視線が集まっていることに、生駒さんは気が付いていない。
多分、生駒さんが結婚出来ない理由って、性格がガサツだからだと思う。黙っていれば可愛いんだろうけど。
「……あ」
すると、ふと視線を向けた先に、一ノ瀬くんがいた。
その姿を見た瞬間、もう何日も一ノ瀬くんに会っていないような感覚に陥る。
ああ、どうしよう。
今いかないと、一ノ瀬くんが行ってしまう──。
「佐伯さん、どこ行くんですか?」
「え?」
俺はほぼ無意識に席を立っていて、生駒さんの言葉にハッとする。
(何、しに……?)
そんなの、答えは、一ノ瀬くんに会いに行く為だって……
「…いや、ちょっと……」
違う。
一ノ瀬くんに会いに行く為なんかじゃない。
何、言ってるんだろう。
俺は、咄嗟に適当な言い訳を口にした。
「トイレに行ってきます……」
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