アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
⑤
-
(どうして……!)
俺は、食堂を飛び出して廊下を早足で歩く。
あんなの、もう否定出来ない。
昨日の今日で、ここまで気持ちが変わるものなのか?
今さっき、確かに、行かなきゃって。
一ノ瀬くんに会いたいって、そう思った。
昨日までは確信の無い気持ちだったのに、何をどう言い訳したって、俺が一ノ瀬くんに会いたいと思ったことは事実だ。
「は……はぁ……」
俺は走って、わざと食堂から遠いトイレに向かった。
どこまで走っても、一ノ瀬くんがチラつく。
(逃げたい……)
俺は思い切りトイレの個室の扉を開け、中に入った。そして、そのまま膝を抱えてしゃがみ込む。
「はぁっ……は……っ」
どうして突然、答えが出るような気持ちになるの。
まだ心の準備が出来ていない。
会いたいって。
触れたい。
一緒にいたい。
どっちの感情なのだろうか。
もしかしたら、両方の思いが含まれてる?
それなら、そんなの、俺が一ノ瀬くんのことが好きだって、そう認めなきゃいけなくなる。
(苦しい……)
手が震えて、それから全身が震え始めた。
「俺……っ」
俺は、一ノ瀬くんのことが好き?
ここまで分かっていて認めたくない訳じゃ無い。
だけど、一ノ瀬くんと付き合うことはいけないことだって、脳内で警鐘が鳴る。
俺は、一ノ瀬くんを幸せに出来ない。
だから。
だから駄目なんだ。
付き合っては駄目。
俺が、いくら一ノ瀬くんを大切にしたいって思っても、何もかもが空回りするんだ。
不器用過ぎる。
恋愛が下手で。
ほんとにどうしようもない奴で。
一ノ瀬くんのことが好きだって言いたい。
ちゃんとこの口で、一ノ瀬くんに伝えたい。
だけどそれは、俺には出来ないから。
そうだ。
認めたくないんじゃなくて、認めてはいけないんだ。
一ノ瀬くんのことが好きなら、尚更……
「やだっ……」
嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。
苦しい。辛い。息が、出来ない。
分かったよ。
分かったのに、どうして今更邪魔をするの。
好き。
俺は、一ノ瀬くんが好きなんだ。
気付きなくなんてなかった。
こんな思いしてまで、一ノ瀬くんが好きだなんて言いたくないよ。
だから、俺は逃げていたんだ。
俺は、ずっと一ノ瀬くんが好きで好きで。
どうしようもないから、好きだってことをひた隠しにして。
「一ノ瀬くん……!」
どうして一ノ瀬くんは、こんなに俺を苦しめるんだよ。
俺だって、一ノ瀬くんみたいに素直になれたら。
素直に好きだって言えたら、それでいいのに。
どうして俺には、それが許されないの?
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
122 / 331