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本当は①
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ずっと、目で追いかけてしまう。
パソコンのキーを打つ姿も、誰かと話している姿も、腕捲りをしている姿も。
全部全部、どの仕草もチラついて、一ノ瀬くんにばかり意識が向いてしまう。
(やっぱり、好きなんだ……)
その意識が全て、俺の確認作業のように思えてくる。
そして、不意に痛む腰を擦れば、その度に一昨日のことを思い出した。
それは勿論、神代のことで。
(…気持ち悪い……)
触れられた感覚も、キスされた感覚も、無理矢理押し入ってきた時の痛みも、その後のことだって、何もかもが、未だ鮮明に残っている。
あれ程まで、神代に嫌悪感を抱いたことは無い。
色んなことが脳内を巡って、とてもじゃないが、仕事になんて集中出来やしなかった。いつもより、作業スピードが落ちているような気がする。
それでも、昨日はまた無断欠勤で部長に頭を下げる羽目になってしまったから、今日は他の人に迷惑を掛ける訳にはいかなかった。
それに何故か、一昨日までには答えを出すと言ったはずなのに、一ノ瀬くんは俺に本音を求めてくることはなくて。
昨日も俺に対する態度は変わりなかった。
だから俺は、言わないつもりだ。
無理して嘘吐いて、一ノ瀬くんが好きじゃないなんて言いたくなかった。
(ずるいな……)
ズルズルと返事を先延ばしにして、自分でもそう思う。
「……佐伯さん」
「…っ……はい…」
いきなり話し掛けられ、俺は思わずビクリと反応した。パタリと、俺の思考は遮断される。
一ノ瀬くんに話し掛けられただけで、この有り様だ。もう、まともな態度で一ノ瀬くんと関われそうにない。
「あ、すみません。忙しかったですか」
「いえ、全然そんなことないです……」
目も合わせない代わりに、俺は苦笑を浮かべた。
ほんと何なんだろう、俺。
一ノ瀬くんの一挙一動にビクビクして、馬鹿みたいだ。
「そうですか。じゃあ、この資料の内容を確認して欲しいんですけど」
「…分かりました」
俺は一ノ瀬くんに差し出された文書を受け取ると、一ノ瀬くんの方を見ることもなく、すぐ下に目を落とした。
(…どうすればいいんだろう……)
全てを話してしまうのも嫌だったし、かと言ってこのままの平行線な関係が続くのもどうかと思う。
本当のことを言えば、俺だって一ノ瀬くんが好きだと伝えたいし、もっと親しくなりたい。
だけど、その思いがあんまり強いから、俺は本心を隠しているしかなかった。
好きだからこそ、言えないんだ。
「はぁ……」
今日で、何度同じことを考えただろう。
もういっそのこと全部言ってしまおうか、なんて思ったりもしたけど、そこは何とか自分に歯止めを掛けて、その都度俺は溜息を吐いた。
きっと一ノ瀬くんの近くにいる限り、俺はずっとこんな思いを抱えていなきゃいけないんだろうな。
考えただけで、すごくしんどいし、息苦しくなる。
いい解決策も見当たらない。
それに、色々と考えているのも頭が悩めてきて痛む。
(なんとかしなきゃ)
思っても、俺にはどうすることが正解なのか分からなかった。
▽ ▽ ▽
その日の帰り。
全てが思い通りにいく方法なんてやっぱり思い付かなくて、俺は悶々とした1日を過ごした。
そして今でも、頭の中は一ノ瀬くんのことでいっぱいで。
「はぁ……」
ほんとに、溜息しか出ない。
俺は俯き気味に会社の外へ出た。
「…佐伯さん」
「へ……っ?」
すると、ふと耳に入ってきた声。
それは紛れもなく一ノ瀬くんの声で、俺はキョロキョロと辺りを見渡す。
俺の方が1時間も後に会社を出たというのに、こんな時間まで待っていてくれたとでも言うのだろうか。
「……あ」
(一ノ瀬くんだ)
その姿を見つけた時、少なくとも俺は心の中で喜んだ。実際、俺の表情は緩んでいるだろう。
一ノ瀬くんと目が合ってから、俺が向かう前に一ノ瀬くんが走って来る。
「…佐伯さん、お疲れ様です」
「ぉ、お疲れ様です……」
あまりに突然だったもので、俺は反応に戸惑った。それでも、顔は伏せないように何とか踏ん張る。
「どうして、こんな時間まで……?」
その質問に、一ノ瀬くんは真面目な顔で答えた。
「…話が、あります」
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