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「…ん……」
(朝……?)
ふと目を覚ました俺は、そんなことを思った。
いつもと違ってカーテンは完全に閉められていたからか、部屋は少し暗くて。
それ以前に、多分起きるのが早かったのだろう。
(暗い……)
部屋の掛け時計に目を遣ると、時間はまだ5時になったばかりで、この季節だと外は薄暗い時間帯だった。
「……佐伯さん?」
すると隣からは、眠気の含まれたような掠れた声が聞こえてきて。俺は視線をそちらに向ける。
「すみません……起こしてしまいましたか?」
「いえ。……おはようございます」
その声は毎日聞いているよりも低くて、俺は何となく気恥ずかしくなった。
俺は一ノ瀬くんから目を逸らし、両手で口を塞いでやる。
「……あんまり、喋っちゃ駄目です……」
「どうしてですか」
しかし、手に伝わる声の振動にさえも肩は跳ねた。
それを見た一ノ瀬くんが小さく笑う。
「どうせ口を塞ぐなら」
そして、不意に一ノ瀬くんの顔が近づいて来て。
「待っ…」
俺が制止の言葉を掛ける前に、一ノ瀬くんは上半身を起こして俺へキスをした。短い口付けだったけど、それでも変に心臓が高なる。
「…こっちの方が良くないですか」
一ノ瀬くんはいたずらっぽく笑うけど。
「……恥ずかしい……」
俺の口から出た言葉は、そんなことだった。
お互いに服を着ていなかったから、動くと何度か素肌が触れ合って、それが恥ずかしい。
「昨日はすごかったですね、佐伯さん」
そう、わざとらしく一ノ瀬くんが言うから、俺は増々顔を赤くした。
「変態ですか……!」
「さぁ?どうでしょう」
少しおどけてみせる一ノ瀬くんからは、いつもよりも幼さを感じて。
俺はどう反応したらいいのか分からなくなって、頭から布団を被った。もう、顔すら見ていられない。
「……一ノ瀬くん、俺…」
「はい」
俺は真っ白な布団の中で、そっと一ノ瀬くんの胸に手を触れた。
そこから、次第に熱が伝わってくる。
昨日の出来事があまりに幸せすぎて、俺は不安になるんだ。
「俺は、一ノ瀬くんの恋人……ということでいいんですか……?」
「どうして、ですか」
さすがに一ノ瀬くんも、僅かに困惑したような声を発する。
だけど、直接一ノ瀬くんに聞かないと、俺は本当に不安だった。ちゃんと、一ノ瀬くんの口から聞きたい。
「俺、変……なんです。やっと気持ちが伝わって、やっと願ったような関係になれたのに……いざ昨日みたいなことがあると、怖くなって…」
だんだんと、声が震えてくる。
「俺は、こんなに幸せでいいんですか……?いつか、全部嘘だったとか、そんなの、嫌だ……」
「大丈夫です」
俺の頭を腕の中に納めて、一ノ瀬くんはすぐにそう言ってくれた。
「この幸せが当たり前だって思えるくらい、たくさん佐伯さんことを愛してあげます。だから絶対に、佐伯さんを不安になんてさせませんよ」
(…やっぱり)
その言葉一つ一つが、俺の心の隙間を埋めてくれる。
すごく嬉しかったけど、それが俺の不安材料だった。
俺が、男性と関わっているのに、こんなに幸せなはずが無い。
初めはあんなに拒絶していたのに、今ではこんなにも一ノ瀬くんを求めていて。
本当に、都合のいいことばかりだと思う。
それでも、一ノ瀬くんが好きなんだ。
好きで好きで、どうしようもないくらい。
「…佐伯さんは、俺の大切な恋人です」
そんなふうに、優しく言われたら。
不安なんてものは、雪が溶けるみたいに消えていく。
「……じゃあ」
俺は、声の震えも全部、一ノ瀬くんに伝わらないように、泣いていることを無理矢理抑え込む。
「俺のこと、好きですか……」
「はい。大好きです。愛してます」
「ん……」
その言葉を聞けただけで十分だった。
俺は何だか安心して、泣いた反動からか、途端に眠くなる。
「佐伯さん、もう少しだけ寝ましょう。……起きたら、夢じゃなかったって言ってあげます」
一ノ瀬くんの声も、腕の中にいることも、俺には何もかもが心地良かった。
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