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⑥
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目覚し時計の音で、俺は静かに目を開けた。
だけど視界はまだ微妙に暗いままで。
(あ……)
そう言えば、と思い出し、俺は一ノ瀬くんから僅かに距離をとって布団を剥いだ。
それから、ベッドの枕元に手を伸ばし、煩く鳴り続ける時計の音を止める。
「一ノ瀬くん……」
「……はい…」
俺が少し声を掛けると、一ノ瀬くんは眠そうに目を覚ました。零れた声は、やっぱり少し掠れていて。
「おはようございます」
「おはようございます……」
意識がはっきりとするまで、一ノ瀬くんの声のトーンは低い。だけど、その声にすらも心地良さを感じてしまう自分がいた。
俺は、一ノ瀬くんに溺れ過ぎなのだろうか。
それくらい、一ノ瀬くんが大好きなんだ。
「……佐伯さん」
一ノ瀬くんは、俺の顔を見てから、優しく微笑みかけてくる。
「昨日のことが夢だったなんて、思いますか」
「夢……?」
俺は、静かに聞き返した。
だけど。
(ううん……)
そんなことは、全く思わない。
だって、こうやって感じられる温もりも全部、昨日と変わらない。
全部全部、本当なんだ。
これが、幸せだって感じること。
一ノ瀬くんの側にいるだけで、本当に心の底から安心出来るんだ。ずっと、隣にいたいと思える。
それは、一ノ瀬くんのことが心の底から好きだから。
一ノ瀬くんも俺と同じ気持ちなら、それは夢じゃなかったって、そう思っていいんでしょう?
「…まだ、不安ですか」
その質問に、俺は否定も肯定もしなかった。
ただ、一ノ瀬くんの胸に頭を埋めて甘えていたかった。
「……たくさん、好きだって聞きたい……そうしたら、十分です……」
「そうですね。じゃあ…」
また、近付けていた頭を腕の中に抱え込まれる。
(駄目だ……)
そんなことにもいちいち泣きそうになって、俺はグッと堪える。
どうして一ノ瀬くんが関わってくると、こんなに涙脆くなってしまうのだろう。一体、今までに何度泣かされたのか。
後頭部を撫でる手に、俺は動けなくなった。
「…俺の好きが十分に伝わるまで、佐伯さんに触れてもいいですか」
「触れる……?」
具体的には、と聞こうとすると、一ノ瀬くんは密着していた身体を少しだけ離し、俺の唇に人差し指を触れてきた。
「キス、します」
一ノ瀬くんのそう言った声は何だか甘ったるくて、俺は頷くことしか出来ない。
それに、一ノ瀬くんにされるキスなら、何も嫌なことなんてなかった。
男性とキスをすること以前に、触れられることすら嫌だったのに、キスなら全然許容範囲で。
俺は自分で思っているよりも一ノ瀬くんに心を許しているみたいだ。
「…緊張してますか」
「……一ノ瀬くんは、しないんですか」
俺なんて、もう心臓がバクバクだ。
予告なんかされると、余計に一ノ瀬くんを意識してしまう。
だけど、一ノ瀬くんからは全然そんな様子は見えないから、俺だけが緊張しているのだろうか、なんて思ったりした。
すると一ノ瀬くんは、俺の頬に手を添え、苦笑いを浮かべる。
「俺だって、緊張くらいします。昨日も、佐伯さんを傷付けたり怖がらせたりしないように必死だったんですから」
「そうだったんですか……」
「はい。多分、腰とかは痛めていないですよね」
確かにそうだ。
俺はそのことに気が付くと、少し驚いた。
普通ならいつも翌日は腰を痛めるのに、今は全く痛みを感じなかった。
「痛く、ないです…」
「なら良かったです。こういうことには、少しずつ慣れていきましょうね」
そう一ノ瀬くんは、俺を愛しそうに見詰めて言った。
俺なんか、今更性行為に慣れるとか、そんなの無視されても良いようなことばっかりされてきたのに。
それでも一ノ瀬くんは、すごく俺を大切にしてくれるから。
そんなことにも俺の涙腺は緩んで。
「ありがとう、ございます……」
「…本当に……何回泣くんですか……」
一ノ瀬くんは、やれやれとでも言うような表情で笑い、優しく唇を俺に重ねてきた。
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