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目の前には、缶ビールが3本も置かれている。
更に、一ノ瀬くんの元には5本。
俺はそれを目にして、ごくりと息を飲んだ。
(酒……)
「……これ、本当に飲まなきゃ駄目ですか?」
「はい」
その返事にすら妙な圧力を感じて、俺は何も言えない。そのビールの缶1点に視線を向け、押し黙るしかなかった。
(苦手なのに……)
元はといえば、コンビニに行ったのが間違いだったんだ。
一ノ瀬くんがお酒を買おうとか言うから。
俺は苦手だって言ったのに、一ノ瀬くんは、それなら酔った俺が見てみたいだなんて言うんだ。
さっき会社でお預けを食らわせてしまったから、そこまで一ノ瀬くんの申し出を拒否することも出来なかった。
「すぐに酔っ払ってしまうんですよね」
「どうしてそんなこと覚えてるんですか……」
その話したの、いつの出来事だよ。
一ノ瀬くんの歓迎会の時だったと思うから、それなりに前のことのはずだ。
覚えていなくてもいいことを、よく覚えていたものだ。
一ノ瀬くんは、特に俺の問い掛けに答えることはなく、とりあえずビール缶を1本開ける。
「…佐伯さん、酔うとどうなるんですか」
缶の中身を1口だけ飲み、一ノ瀬くんは質問してきた。
「酔うと、すぐに眠っちゃいます」
答えはこの他にもう1つあるのだが、あえて程度が軽い方を教えてやる。2つ目の答えは、過去に酒でのトラウマがあったから言いたくなかった。
俺は、ビール缶たったの2本で警察沙汰を起こしたことがあるのだ。
(……言わないけど)
「そうなんですか」
一ノ瀬くんはそれだけ言って、またビールを体内に流し込む。一ノ瀬くんがお酒を飲む姿をあんまり見たことがなかったから、何だか新鮮だった。
「…佐伯さんも飲んでいいですよ」
一ノ瀬くんに、飲みたくもないものを勧められる。
俺は断ることも出来なくて、渋々缶を開けた。
(臭い……)
このアルコールの臭い。お酒の臭いすら苦手だった。
俺は思わず顔を退いてしまうが、何とか缶の縁に口を付ける。
そして、2度ほど喉を鳴らした。
飲み慣れない液体が、喉を通り過ぎて流れていく。
(……不味い)
こんなもの、決して美味しい訳じゃ無いのに。
大人になるとお酒が美味しく感じられるようになるなんて言うけど、俺はそんなことを感じたことなど一度も無かった。
味は苦いだけだし、好んで飲もうとは思わない。
「どうですか」
「美味しくないですよ、こんなの……」
俺はわざとあからさまに、渋った表情をして見せた。ここから缶の残りを飲む気にはなれない。
そもそも、特に疲労がピークでもない時に飲むなんて、そりゃ不味くない訳が無いんだ。
「味覚、子供ですか」
そう言ってから、一ノ瀬くんはまたビールを飲み込む。
それはまるで見せつけるようで、俺も変な意地を張るもんだから、グッと我慢してビール缶の半分くらいまでを体内に流し込んだ。
それを見た一ノ瀬くんが、空になった缶をテーブルの上に置いて可笑しそうに笑う。
「……佐伯さん」
「なんですか…」
一ノ瀬くんは身体をこちらに乗り出し、液体で濡れた俺の唇を親指で拭う。
「一気飲みは、二日酔いの原因になりますよ」
(絶対馬鹿にしてる……)
俺は唇を触られたまま、恨めしく一ノ瀬くんを睨み付けた。
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