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④
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(駄目だ……)
朝からガンガンと激しい頭痛に加え、酷い吐き気で目覚めは最悪だ。過去にはもっと酷い症状が出た時もあったが、今だって全然楽じゃない。
俺はベッドの上で1人、うずくまっていた。
「一ノ瀬くん……」
どうしたらいいのかも分からなくて、とりあえず絞り出すように一ノ瀬くんの名前を呼ぶ。
膝を抱えて座っている今でも十分に苦しいが、横になると吐き気は増す一方だった。
そして一ノ瀬くんはと言うと、わざわざコンビニまでスポーツドリンクを買いに行ってくれていた。
近くには水のペットボトルも置かれていたのだが、手に力は入らないし、一ノ瀬くんは俺が起きてすぐに行ってしまった為、キャップが開けられなかった。
「ぅぅ……」
もういっそ寝てしまった方が楽になれるのだろうけど、頭痛と吐き気が続いている限りは眠れそうにない。
早く一ノ瀬くんに帰って来て欲しいけど、俺にはどうすることもできなかった。
「気持ち悪い……」
ほんとに、どうしてお酒を飲むと毎回こうなるんだろう。辛い。
今も、胃の中のものを吐き出して楽になりたいとは思うけど、きっと1人で立ち上がって動いたら、トイレまでなんて耐えられない。
要するに俺は、一ノ瀬くんを待つという選択肢しか持っていなかった。
それでも、一ノ瀬くんは何分前に出て行ったのか、それすらもあやふやで、なかなか帰ってこない遅さに泣けてくる。
1人でこの辛さと戦っていると、どうしても1分1秒が長く感じてしまうんだ。
「…一ノ瀬くん……」
俺がまた、そう呟いた時。
──ガチャ
(帰って来た……?)
玄関の扉が開く音がした。
足音はこちらに近付いて来ていて、だけども俺は、顔を上げることすらままならない。
一ノ瀬くんが帰って来たんだと思うと、それだけで症状が軽くなるような気持ちになれた。
「……すみません、遅くなりました」
その言葉と共に、一ノ瀬くんが寝室に入って来る。
何とか頭をもたげると、その手にはコンビニの袋が握られていた。
一ノ瀬くんは中からペットボトルと薬と出して、それらを俺の座る横に置いた。
「顔色、悪いですね」
そう言ってベッドに上がる一ノ瀬くんは全くの二日酔い知らずで、体調はいつもと変わらない。
顔色が悪いのは一ノ瀬くんのせいだ、なんて思うけど、それを口に出来る程の元気など、俺には残っていなかった。
「……とりあえず、飲み物は飲めますか」
一ノ瀬くんはスポーツドリンクを手に取り、聞いてくる。だから俺は、力無く一度だけ頷いた。
すると一ノ瀬くんは、俺の斜め後ろに移動して、パキパキとペットボトルの蓋を開ける。
「ちょっとだけ、上向いてもらえますか」
ほんの少し顔を上げると、一ノ瀬くんに軽く顎を持ち上げられた。そして、蓋の空いたペットボトルが口元に近付けられるから、俺はゆっくりと口を開く。
「…は……」
そっと流し込まれるスポーツドリンクに、思わず息が零れた。
「ん…っ……」
上手く飲み物が飲めなくて、口の端から液体が伝って服の上に落ちる。一気に飲んだら気持ち悪くなりそうで、少しずつしか飲めなかった。
いや、そうじゃなくても、スポーツドリンクの甘さが吐き気を増進させる。
(苦しい……)
ペットボトルの中身は然程減らなかったが、一ノ瀬くんは俺に飲ませるのを止めた。
途端にまた気持ち悪くなって、俺は顔をひそめる。
「一ノ瀬く……」
「気持ち悪いですか」
俺が言う前に一ノ瀬くんは言ってくれて、俺は小さく首を縦に振った。
もう、飲み物ですら、口に入れるのが苦しい。
「分かりました。立てますか」
一ノ瀬くんの、背中を擦ってくる手に励まされ、俺は身体に力を入れてみた。頑張れば、歩けないこともなさそうだ。
「はい……」
俺は、濡れた口元を袖口で拭った。
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