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外に出ると、俺と一ノ瀬くんは並行になって歩いた。距離も近かったけど、手は繋がない。
今はあくまでも友達同士に近いような気分で出掛けているから、手は繋がないのが当然なのだ。
だから、互いの両手は寂しくも空中に浮く。
繋いだは繋いだで恥ずかしいけど、両手が空いているのもどこか悲しかった。
今なら、繋いでもいいかも。
そう思ったりもするけど、そんなことは一ノ瀬くんに言える訳が無かった。
この我慢も全部、俺の為にしてくれていることだから。
「……どこか、行きたい場所とかありますか」
時間の確認にスマホの画面を開いた一ノ瀬くんが問い掛ける。多分、時刻は既に12時を回ろうとしているだろう。
そうなるとやっぱり、行くのは近くの店の方がいいのだろうけど、そう聞かれても、俺はこの辺りのお店をよくは知らなかった。
それに、食べに行くことが最終目的ではないから、食べられればどこでも良かった。
「どこでもいいですよ」
俺が答えると、一ノ瀬くんは少し悩んだように黙り込んでしまい、しばらくしてから声を発した。
「……じゃあ、近くのファミレスで…」
(あ……)
しかし、一ノ瀬くんが言い終えぬうちに、俺は静かに足を止めた。一ノ瀬くんも途中で言葉を切り、その場に止まる。
「…佐伯さん?」
一ノ瀬くんはこちらを向くが、俺はただ一点を見詰めたままだった。だから遂に、一ノ瀬くんも俺と同じ方に視線を向ける。
(青山……)
「……あれ、佐伯?」
「っ……」
すると相手から声を掛けられ、俺は思わず一歩退いてしまう。一ノ瀬くんがそっと背中に手を添えてくれたから、それ以上は下がらなかった。
「え?佐伯だよな?」
俺が認識しているのは分かっているのに何の反応も示さないから、あっちは歩み寄って来る。
(……杏介)
青山杏介は、大学時代に仲の良かった友達だ。
いつも元気で、皆に好かれていて、すごくいい奴。
「…誰ですか」
「大学の、友達……」
俺が小さな声でそう言っている間にも、青山は近くまで来ていて。さすがに避ける訳にもいかなかったから、俺は何とか踏み止まった。
「久し振り!」
「うん、そうだね」
愛想のいい青山の笑顔とは対称的に、俺はちゃんと笑えているだろうか。きっと、歪んだ表情しか出来ない。どんな顔で話せばいいのかも分からない。
だけど、青山はそんなことに触れてくることはない。
「…そっちは、佐伯の友達?」
「あぁ……」
そう聞かれ、どう答えるべきか迷った。それでも、一ノ瀬くんに答えさせることもどうかと思ったから、とりあえず無難に答えておく。
「そう、友達」
「へぇ、ちゃんと友達いたんだね」
青山は冗談交じりに言ってくる。大学に通っていた頃の俺なら、失礼だな、とか少しはノリのいいことを言ったりもしていたんだろうけど、今はそれが出来ない。
見知った顔のはずなのに、やたらと緊張してしまって何も言えなかった。
「なぁ佐伯、今からどっか食べ行くの?」
「うん。近くの店とかだと思うけど」
嫌な予感がする質問だ。
適当に答えてみると、青山は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、一緒に行っていい?」
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