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取り残されて①
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佐伯さんが外に行ってしまったことで、俺は青山さんと2人きりで残らざるを得なかった。
特に気まずい雰囲気という訳でも無いんだけど、俺から話すことなんか何も無くて。
俺は青山さんから何か話してくれることを待った。
(青山、杏介さん……)
佐伯さんの友達としては、俺の想像よりも相当明るい人で、初めは正直驚いた。
俺の中の佐伯さんは、どちらかと言えば物静かな人というイメージだったから、青山さんはまさに真逆で。
それに、青山さんは佐伯さんのことで、俺の知らないことを幾つも知っている。そう思うと、青山さんが少し羨ましく感じてしまった。
「……ねぇ遥斗くん」
「はい」
そうやって、突然話し掛けられることにも慣れた。
年上とは思えない程、青山さんには元気が有り余っていているような気がする。青山さんと佐伯さんが仲の良かった友達だったと思うと、なんか不思議な感じがした。
そして青山さんは、変わらない笑顔を俺に向けてきて言う。
「佐伯さ、遥斗くんに口悪い?」
「え?」
それが当然だとでも言うように問い掛けてくるから、俺は即座にまともな返事が返せなかった。
(佐伯さんが?)
だって佐伯さんは、口が悪いどころか、年下の俺にまで敬語を使ってくるような人だ。
言われたことのある言葉なんて、冗談交じりでの馬鹿だとか変態だとか、それくらいしか無いし。
佐伯さんが悪口という程に口が悪かった記憶は、まだ無い。
「全然そんなことないです。寧ろ、俺にまで敬語ですよ、佐伯さん」
「そうなんだ」
はは、と笑ってから、青山さんは俺の目を見る。
何となく俺は、その視線から逃れられないような気持ちになった。
「……佐伯はさ、大学の頃はキモいとか死ねとか、まぁ遊びでだけど、普通に言うような奴だったんだ」
青山さんは、大学の思い出を語る口調で話す。
俺は、その話の内容に少し驚いた。
(意外…)
それが口先だけの言葉であっても、今の佐伯さんからは想像が出来ない。と言うか、俺からすれば有り得なかった。
俺は、何も言わずに青山さんの言葉を待つ。
「けど、佐伯は本当に優しい奴だったから、みんなに好かれてたな。可愛い彼女も普通にいたし」
その辺りまで言うと、青山さんの口調が、少し落ち着き始めた。多分、青山さんが本当に言いたいことは、そういうことじゃないのだと思う。
「何が言いたいんですか」
もう、俺から聞いた。
青山さんはその瞬間から、儚いような笑顔に表情を変える。
「佐伯に、何があったの?」
1つ、小さな溜息を吐く。
「…なんか、怯えられてるような気がすんだよ」
どうして、と訳を問われるような目で見られた。
別に、俺が責められている訳では無いのだけれど、どこか申し訳無い気持ちにさせられる。
「それは……」
そんなの、理由は1つしかないのだろう。
男性恐怖症だから。
その一言で全ての説明がつく。
(……あ)
そうか。
佐伯さんが俺に敬語なのも、佐伯さんが男性恐怖症だから。
佐伯さんの中で、俺は男性だから。
所詮、俺は1人の男でしかない。
恋人という肩書きは得たかもしれないけど、結局はそれまで。恋人で男性。それ以上は何も無い。
今更そんなことに気が付いて、俺は自嘲気味に笑ってしまう。
(あぁ……)
俺は佐伯さんに、一体何を求めているのだろうか。
なんて、馬鹿馬鹿しい。
(もう止めよう)
変なことを考えてどうする、と軽く頭を振るが、そうすると次に出てくる考えが、青山さんに言ってもいいのか、ということだった。
自分が男性恐怖症であることを、わざと青山さんに隠しているのだとしたら、俺から言うことは出来ない。
(何て言おう)
とか思って口籠っていると、突如青山さんはコップの中の水を一気に飲み干し、その空になったコップを勢い良くテーブルの上に置いた。
「………え」
「あーごめん!ほんと変な空気にさせちゃって」
静かなの苦手なんだなんだよね、と見掛け通りの言葉を聞かされ、青山さんはさっきまでの調子を取り戻す。
「でも大丈夫!言い難いことでも言っていいから!」
「いや、でも……」
俺が言う分には全然いいのだが、佐伯さんのことを考えてると素直に言ってしまう訳にもいかなかった。
青山さんは、早く早くと急かすような目を向けてくるから、俺は思わず視線を逸らしてしまう。俺から目を背ける佐伯さんみたいに。
すると青山さんは、何と言ったものかと考える素振りを見せて、それから口を開いた。
「言っても俺、大学でいちばん佐伯と仲良かったから!」
「……あぁ、はい」
青山さんは、なぜかドヤ顔のような表情を見せてくる。
いくらいちばん仲の良い友人だったとしても、それは全てを言ってもいい理由にはならない。
俺は、だから何ですか、と言う意味を込めて言葉を返した。当の青山さんは面食らったような表情をしたが、その後で吹き出して笑う。
「あぁはいって…遥斗くん冷静だな!」
「普通だと思いますけど」
「それが面白いんだって!」
笑われる理由が分からない。
俺は怪訝な顔をして首を傾げた。
そしてひと仕切り笑った後、青山さんは両手を合わせて、軽く俺に頭を下げてくる。
「なぁ、お願い!絶対遥斗くんから聞いたって、佐伯には言わないから!」
(必死だ……)
青山さんのそんな様子を見ていると、思わずそう思ってしまった。だから、もう言ってやってもいいかな、とか甘やかしそうになる。
「…俺は別にいいんですけど、俺が何言っても、佐伯さんには今まで通り接してくれますか」
俺が言うと、青山さんはパッと表情を変えて、激しく頭を振った。
「そりゃ勿論!」
ここまで言われたら俺だって言わないなんてことが出来なくて、仕方無く溜息を吐いた。
後で、佐伯さんに謝らなければ。
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