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緊張と不安。それから、少しの恐怖心。
昼から一度だって、それから開放された瞬間は無かった。
目が合った時、触れられた時、その態度に笑われた時。そうじゃなくても、1人になった時だって、一ノ瀬くんを意識してしまう。
大人になってまでこんなドキドキしてるから、純粋だとか一ノ瀬くんにからかわれるんだろうけど、これはどうしようもない。
だって、普通は緊張するものなんじゃないの?
一ノ瀬くんは態度を変えないけども。
少しくらい、俺と同じ気持ちになってくれたっていいと思う。
「……佐伯さん?」
「…っ……はい」
突然に名前を呼ばれたことへの動揺を隠しきれていない返事に、俺は更にあたふたとしてしまう。
自分で自分の首を絞めてどうするんだ。
息吐く暇も無い。
緊張の中に一ノ瀬くんが入って来ると、余計に変なことを意識してならない。
悪循環だ。
「そんなに力入れなくていいですよ」
そう言って、もう何度目か分からないくらいに笑われるけど、俺だって好きでこんな態度を取っている訳じゃ無い。
「……緊張、するんです……」
「そうなんですか。可愛いですね」
また、俺をからかっているのか何なのか。
一ノ瀬くんは俺に、可愛いという単語を使ってくる。
しかし、もう俺には怒る気力なんて残っているはずが無くて、俺は何の反抗も出来なかったし、言い返すことも出来なかった。
「ぅぅ……」
もう夜の8時だ。
いつ襲われても可怪しくない時間帯なのに、一ノ瀬くんは何もしてこないから、こっちが余計に焦らされて困る。
俺は、膝を抱えて俯いてしまった。
周りのことなんて、一切頭に入ってこなくて。
今はただ1人、一ノ瀬くんにだけ意識が集中した。
「俺、どのタイミングで佐伯さんに触れていいのか分からないですよ」
「だって……っ」
そりゃあ、これだけ防御に徹していれば、タイミング云々以前の問題だ。それでも、俺からタイミングを作ることは出来ないし、俺もどうしたらいいのか分からない。
とりあえず、心の準備が出来るまで時間が欲しかった。
「じゃあ…」
すると一ノ瀬くんは、ぽんと俺の頭に手を置いてくる。
それにまで驚いてしまうけれど、一ノ瀬くんの手はすぐに離れていった。
「…先にお風呂入りましょうか」
(……いいの?)
視線を上げた先の一ノ瀬くんは苦笑顔で、それは気を遣わせている時の表情だった。
また、同じ表情。
俺は、何度一ノ瀬くんに同じ顔をさせれば気が済むのだろうか。
そう思って、申し訳無い気持ちになる。
「…俺は後から入るので、佐伯さん先にどうぞ」
これ以上は、一ノ瀬くんにばかり気を遣わせたくない。だから、待ってと言葉を掛けようとしたのだが、そう言われては何も反抗出来ない。
俺は、素直に頷くしかなかった。
▽ ▽ ▽
一ノ瀬くんはわざわざお風呂に湯を溜めてくれて、俺はそれに、静かに入浴した。
「…はぁ……」
(落ち着く……)
心地の良い温度に、自然と心も休まる。
1つ息を吐くと、それと同時に悶々としたものまで飛んで行くような気がした。
一ノ瀬くんは、少しずつ慣れていこうとは言ったけど、少し展開が早過ぎるような感じもする。
恋人同士で同居をしたら、こんなにキスをしたりすることも当たり前なのだろうか。俺には、彼女との同居の経験なんて無いから、分からない。
(嫌だな……)
一ノ瀬くんは、俺よりも恋愛経験が多いのかもしれない。そんなことを考えると、少し悔しくなって。
俺の知らない一ノ瀬くんを知っている人がいる。
それは、羨ましいと思ったけど、どこか嫉妬に近いような感情も湧いてくる。
それに対しては、どうして嫉妬なんか、と自分が情けなく思えた。
一ノ瀬くんが過去に誰と付き合っていたかなんて、今では関係の無いことなのに。
「一ノ瀬くん……」
俺は、一ノ瀬くんが好きで好きで、本当、どうにかなってしまいそうだ。
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