アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
④
-
お互いに髪を乾かし終え、やっと寝室まで来ることができた。2人でベッドに上がり、どちらからともなく見詰め合う。
(…どうしよう……)
今は勿論、ここまで来る最中も、心臓は壊れそうなくらいに速く脈打っていた。
それを何とか抑えようとしてゆっくり呼吸をしたって、何も変わらない。一ノ瀬くんがそこにいるというだけで、緊張はピークへと上り詰めそうになる。
覚悟を決める、といっても、どうすれば覚悟は決められるのか。それが分からなくて、未だ完全に一ノ瀬くんを受け入れる態勢は整っていなかった。
電気は全て消したけど、外からの光でお互いの姿はちゃんと見えていて。
「……佐伯さん、触れてもいいですか」
一ノ瀬くんは僅かに、俺の方に身を乗り出して聞いてくる。俺は、それに伴って身体を仰け反らしそうになったが、グッと我慢して、何とか堪えた。
ふんわりと鼻を掠める、お風呂上りのシャンプーの匂いや柔軟剤の匂いが、俺の頭を麻痺させる。
「…はい……」
自分で顔を持ち上げ、俺はきゅっと目を閉じた。
一ノ瀬くんの顔が見えない。
いつ触れられるのかが分からないから尚更、心臓のドキドキは収まることを知らない。
そっと頬に触れたその手に、俺は肩を竦めた。
「……逃げないでくださいね」
聞こえてきた甘い声に続き、そっと一ノ瀬くんの唇が重なる。
俺はその行為に逃げてしまわないよう、一ノ瀬くんの服を掴んで自ら距離を近付けた。
「…は…っ……ん」
零れていく吐息を追うように、息を求める。
次第に押し入ってくる舌が熱くて、少しだけ苦しくなった。
らしくないと言えば、らしくないけど。
こんなふうに求められるのは、俺が一ノ瀬くんにたくさん我慢をさせてきてしまったからだ。
だから、一ノ瀬くんの望むことは出来るだけ叶えてあげたいと思うし、俺だって応えたい。
(息、できな……)
部屋には、リップ音と、布の擦れ合う音。
それだけで雰囲気は演出され、俺は何とも言えない気持ちになった。
「佐伯さん…」
名前を呼ばれるだけで。
それだけでも、俺の鼓動を速める。
「ぁ…ッ……待ってくださっ……」
しかし、突然に腹部を這い始めた指に、俺は思わず一ノ瀬くんの肩を掴んで引き離してしまった。
服の下に手を差し込まれて直に触られたのだから、それは驚くに決まっている。
「じっ…自分で、脱ぎます……!」
俺は1人で慌てながら、顔を伏せた。
きっと一ノ瀬くんは、ちゃんと順を追って服を脱がそうとしてくれたのだろうけど、だんだんと露わにされる素肌は恥ずかし過ぎて、そんなの、俺には耐えられない。
一ノ瀬くんは、そんな俺の気持ちを察してか、素直に俺から離れてくれた。
「じゃあ、俺も脱ぎます」
「えっ……」
平然とした口調は、いつもと変わらない。
ここで2人一緒に服を脱ぐのだろうか、なんて思って躊躇っていると、一ノ瀬くんは俺の頭を撫でてから優しく笑う。
「大丈夫ですよ。俺はあっちで着替えるので」
それだけ言うと、一ノ瀬くんは俺が何か言葉を返す前にベッドを降りた。
それは、俺はベッドで服を脱いでもいいということになるのだろうか。一ノ瀬くんは俺から少し離れた所で脱衣しようとしているから、俺はそう受け取る。
それに、気遣いなのか何なのか、一ノ瀬くんは後ろを向いてくれて。
(仕方無い……)
俺は渋々、服を脱がざるを得なかった。
▽ ▽ ▽
そうして脱衣が完了すると、俺は膝を抱え込んで座った。
こちらへ歩み寄って来る一ノ瀬くんも、俺と同じく全ての服を脱いでいて。
スーツの上からだと細いな、と思っていた一ノ瀬くんの身体には割と筋肉がついていて、やっぱり一ノ瀬くんは男性なんだな、なんて改めて感じた。
(綺麗……)
不覚にも、思ってしまう。
すると一ノ瀬くんはさっきのように頬へ手を添えてきて、押し倒すようにベッドへ上がってくる。
「…綺麗ですよ」
「…ッ……」
俺が一ノ瀬くんへ思ったことと同じ言葉を掛けられて。俺は返す言葉が見つからなかった。
俺なんか、全然綺麗じゃないのに。
汚れてる。
神代に、洸平に、それだけじゃない。
一ノ瀬くん以外に触られた場所は、もう汚染済みなのに。
一ノ瀬くんが思う程、俺は高潔な人間でもないから。純粋でも、可愛い訳でも無い。
「……一ノ瀬くん…」
涙で視界はぼやけ、一ノ瀬くんの顔も歪む。
「俺のこと、捨てないでくださいね……」
いつか、その通りに。
俺が汚いのだと一ノ瀬くんに思われたら、きっと見切られる。俺は、一ノ瀬くんの手から零れたくない。
これだけ一緒にいても、不安なんて無くらならないんだ。
すると一ノ瀬くんは、俺の髪を梳いて。
「大丈夫です。俺は絶対に、佐伯さんを離したりしませんから」
決して長い言葉ではないけれども、そう言ってもらえるだけで安心出来る。胸が痛いのも、息が苦しいのも、全部溶けてなくなるような、そんな気がした。
「…俺は、佐伯さんが思っているより、佐伯さんのことが大好きなんですよ」
知ってましたか、といたずらっぽく笑う表情が、俺の胸を締め付ける。
「…だから、全部俺に任せて。信じてください」
(ああ……)
苦しい。
嬉しくて、苦し過ぎた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
167 / 331