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よく出来ました、と言われた後に、また指が引き抜かれる。やっと止めてくれたという安堵感からか、頭はボーとした。
乱れた呼吸を整える為、俺は一ノ瀬くんから離れられないまま、長く息を吸ってはその分を深く吐き出した。
「はぁぁっ……は…っ…」
一ノ瀬くんは無言で、そんな俺の背中を優しく擦ってくる。さっきまで酷く弄ばれていたのが嘘みたいに、優しく。
(何がしたいんだ……)
「一ノ瀬くんっ…」
まだ完全に安定した呼吸とは言えないが、いつまでも黙ってはいられなくて俺は顔を上げた。
涙目で、顔も赤くて、口元も震えて。
そんな情けない表情で睨んだって意味は無いと分かっているが、そうでもしないと気が落ち着かなかった。
「なんで、こんな意地悪…っ、するんですか……!」
言葉にも、声にも力が入らない。
それでも何とか言ってやったのに、一ノ瀬くんは相変わらず涼しい顔をして俺を見詰める。
それなのに、俺は一ノ瀬くんを憎たらしいなどとは思えなくて、そんな自分にさえ腹が立つ。
いくら俺が嫌だと思うようなことをされても、それで一ノ瀬くんが嫌いだとは言えなかった。
「…怖がらせてしまって、すみません」
しかし、予想と反して、一ノ瀬くんは素直に謝罪の言葉を口にする。何か言い訳でもするのかと思った。
それならどうして、あんなことをしたのか。
俺は困惑すると同時に、当然の疑問が浮かび上がってきて、一ノ瀬くんの言葉には何も返せなかった。
それを察してか、一ノ瀬くんはさぞ申し訳無さそうな表情で俺の髪を撫でる。
「本当は、嫌がらせるつもりはなかったんです。佐伯さんが頑張るって言ったので、少し意地悪したかっただけなんです」
その様子は、結構反省しているような態度で、俺だって怒る気力も失せる。
柄にも無く、一ノ瀬くんの方が年下のような扱いだ。いや、実際はそうなんだけど、いつもは年齢が逆転しているみたいな感じだったから。
「…もう、別にいいです」
俺はわざと拗ねたように言い、それからしっかりと一ノ瀬くんの目を見る。
もう怖くはない。
だって、一ノ瀬くんが言ってくれたから。
一ノ瀬くんが最初に言ってくれたことを、俺は忘れたら駄目なんだ。
「全部任せて、いいんですよね……?」
俺は、一ノ瀬くんを信じるよ。
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