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③
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資料室を出た俺は、駆け足気味に部署へと戻る廊下を歩いた。
なぜか、ファイルを抱える手が震える。
世良さんがあんなことを言うから驚いたんだ。
確かに、表情はいつも通りの笑顔だったけど、あれは違う。誠実さとでも言うのだろうか。ヘラヘラとしている感じがしなかったのだ。
(本当に……?)
世良さんは、俺のことが好きだったと、そう言った。あんな表情で、あんな真面目な口調で言われたら、それを疑う余地なんて無い。
だって、俺のことが好きだっていうのは、からかっていたからじゃなかったのかよ。
「っ……」
もし。
もし本当に、本気で世良さんが俺のことを好きだと言っていたのなら、俺はどれだけ世良さんに酷いことをしたのだろう。
世良さんに、一ノ瀬くんのことで相談に乗ってもらった。
付き合えたなどと、何も知らずに結果報告をした。
何も、知らなかったんだ。
本当に。
世良さんの気持ちを理解すると、その瞬間から罪悪感が湧き上がってくる。胸が、苦しくなる。
仮に、俺がその立場だったら?
大好きな一ノ瀬くんに、他の子が好きだと相談されたら。それで、無事付き合えたと言われたら。
(……無理だ)
そんなの、俺には耐えられない。
なんで俺は、気付こうとしなかったんだろう。
どうしよう。どうしよう。どうしよう?
本当に、本当にごめんなさい。
今すぐにでも謝りたい。
昨日とは全く違う。
血液がうねって、ドクドクしたものが流れる。
汚い。
自分のことしか考えていなかった自分が、本当に汚い。
「──んで、そういう話になんの?」
(あ……)
ふと顔を上げると、隣を早足で過ぎて行く一ノ瀬くんとすれ違う。
思わず視線で追うが、一ノ瀬くんは携帯を耳に当てながら廊下の先へと遠ざかって行った。
何だか、話し掛けられる雰囲気ではなくて。
(なに……?)
初めて一ノ瀬くんから感じた空気。
世良さんのことも相まって困惑した俺は、しばしその場に立ち止まってしまった。
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