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⑤
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世良さんの後ろ姿を見つける。
月曜日、世良さんに好きだったと言われて、俺がそれを振ってから、今日まで一度だって口を聞いていなかった。
というか、話し掛けられる訳がない。
世良さんに特別落ち込んだような様子は見られなかったけど、俺に世良さんの心を読む力なんてある訳がないし、そんなことは俺が知ったことじゃない。
だけど、全く気を落としていないということも、普通なら有り得ないだろう。
いくら世良さんから振ってほしいと言われたとしても、多少は傷付くはずで。
それなのに、平然として世良さんの前に現れることはできなかった。
(……ごめんなさい)
そうは思うのに、いざとなると声を掛けられない自分が情けない。
一ノ瀬くんに電話の内容も聞けなければ、世良さんに謝る勇気も出ない。俺は、どこまで臆病者なのだろう。
馬鹿だなぁ、俺。
「はぁ……」
世良さんから視線を外し、デスクに頬杖をつく。
こんなにもやもやしていたら、仕事になんて身が入らない。
一ノ瀬くんのいないところでは溜息ばかり出るし、本当に、どうしたらいいのか分からない。
色々と行動に移せない自分が嫌になるんだ。
(どうしようかな……)
仕事にはなかなか集中できなかったが、俺は渋々キーボードに指を置いた。
全然、作業が進まない。
▽ ▽ ▽
「ふぁぁ……」
結局、本日分の仕事が定時内に終わらなかった俺は、残業だ。
眠気と倦怠感に、欠伸をしながら伸びをする。
夜になると、午前や夕方とは違って一気に冷え込み始める。指先も冷たくて、上手くキーボードを叩けなかった。
俺の他には誰も残っていないし、1人だと余計に寒く感じる。
(寒……)
そう思って、ふと窓の外に目を向ける。
建物の光やらで普通に外は明るいのだが、いつもと違っていたのは、雨が降っていたことだ。
雨は強く窓を叩き、なぜ今の今まで気付かなかったのだろうかと不思議に思った。大雨、とまではいかなくても、結構な量が降っている。
「うわ……」
思わず、そんな声が零れた。
冬に雨なんか降られたら、そりゃ寒いに決まっている。
スーツが濡れるのも、コートが濡れるのも嫌だったし、気分は最悪だ。
天気予報、ちゃんと見て来れば良かった。
それか、残業なんかしないで帰っていればな。
傘も何も持って来ていないのに。
今更そんなことを言っていたって仕方無いけど。
この雨は、しばらく止みそうになかった。
(走って帰ろう……)
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