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寂しい①
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朝からスマホの着信音に起こされる。
休みなんだからもう少し寝させろと思いつつ部屋の掛け時計に目を遣ると、時刻は午前7時。
既に起床したのか、隣には一ノ瀬くんもいなかったし、俺は渋々スマホを手に取った。
(誰だよ……)
寝ぼけ眼で画面を確認すると、発信元は生駒玲乃。
生駒さんから電話がくるなんて珍しかった。
朝っぱらから元気だなぁ、なんて思いながら俺は通話ボタンに指を触れる。
「もしも…」
『もしもし佐伯さんですか!』
(うるさい……っ)
急に飛び込んできた甲高い声に、俺は咄嗟にスマホを耳から離した。ほんと、朝だから鼓膜が破れるかと思った。
もうこんな早くから生駒さんと話したくないと思うけど、一方的に切るのも可哀想だから仕方無い。
「何ですか……」
『今日遊びに行ってもいいですか!』
「………え」
突然の提案に、俺は思考がショートする。
完全に、挨拶とか当然の範囲内の常識を忘れているが、そんなのはもうどうでもいい。
それ以上は言葉を紡ぐことができなかったから、変な沈黙が流れた。
(遊びにって……)
一体、生駒さんは何を考えているのだろうか。
というか、待てよ。
当然、生駒さんは俺が一ノ瀬くんの家にいることを知らない訳だから、生駒さんは俺の家で遊ぼうとしている。
そうなると、俺は家に戻らなくてはならないのか。
「……えっと、何時頃に?」
また突飛な時間帯に設定されないだろうかと、俺は恐る恐る聞いてみる。生駒さんは一応、悩むような声を出した。
『うーん……』
「佐伯さん」
すると、寝室に一ノ瀬くんが入ってくる。
スマホを耳に近付けたまま、俺はその方向に頭を向けた。
僅かだが、開いた扉から卵料理と思われるいい匂いがする。朝食に呼びに来たのだろうか。
『…実はもう準備してるんですけど、8時くらいに行ってもいいですか?』
「は!?」
思わず大きな声を出してしまい、俺は口を噤んだ。
電話中だからか話し掛けてこないけど、一ノ瀬くんは驚いたような表情でこちらを見る。
さすがに8時までは残り1時間を切っているし、それは無理だった。
『え、駄目ですか?』
「…9時なら、大丈夫です」
『ほんとですか!?じゃあ同じ部署の人、何人か連れて行きます!」
「あー……はい?」
なぜそうなるんだ。
しかし、俺が待ってと相談を持ち掛ける前に、生駒さんは喜々として言葉を発す。
「佐伯さんありがとうございます!では!」
「え!ちょっと…っ」
生駒さんは先輩の話を聞こうともしない。
(……切れた…)
画面の向こうからは、もう生駒さんの声がしなくなった。
ブツッと急に切られたスマホを見詰めながら、俺は呆れて溜息しか出ない。
掛け直してやっても良かったが、またあのテンションと付き合うのか、と考えると憂鬱で止めた。
「一ノ瀬く…」
「あ、すみません」
俺がベッドから出ようとすると、リビングの方から着信音が鳴って、一ノ瀬くんはまた戻って行ってしまった。
いつもの電話かな、と思う。
「はぁ……」
仕方無く1人ベッドを降り、適当に私服を漁った。
しかし、一ノ瀬くんが家の外に出る気配はなくて、一ノ瀬くんは普通にリビングで電話に出ていた。
(誰?)
少し話を聞いていると、途中で一ノ瀬くんの口から、生駒さんという言葉が出てくる。
俺はなんとなく、いつもの電話じゃないと分かっただけで安心して。
生駒さんは同じ部署の人を呼ぶって言っていたし、一ノ瀬くんにも連絡を回しているのだろうか。
緊張感が切れると、収集掛けるの早いなぁ、なんて悠長なことを思った。
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