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遊戯①
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いちばん初めに家に来たのは、思った通り生駒さんだった。
その後から来たのは、世良さんと早坂さん。
つまり、最終的に集まったのは5人だ。
生駒さんは他にも誘ったらしいのだが、今集まれる人はこれしかいなかったらしい。
まぁ土曜日だし、朝から突然あんなテンションで誘われても行こうとは思えないな。当然だ。
「……それで、何をするんですか?」
「うーん、そうですねぇ!」
特に何が始まった訳でもないのに、既に生駒さんは楽しそうだった。
一応5人でテーブルを取り囲んでいる訳だけれども、この面子で集まって楽しいことなどあるのだろうか。
偶然、俺は一人ひとり個人とは接点があるというか、それなりに親しいと思っているのだが、みんなはどうなんだろう。
「玲乃ちゃん元気だねぇ」
「私はいつだって元気ですよ!」
「はは、そうだね」
(まぁ……)
来てくれた男性が世良さん1人で良かったとは心底思う。他の男性なんかが集まってきたら、そんなのは遊んでいる場合じゃなかったから、本当に。
「……じゃあ俺、飲み物持って来るので、何がいいですか?」
しかしながら、このままでは何も状況は発展しないなと思い、俺は立ち上がろうとした。だが、
「俺行きます」
そう言う一ノ瀬くんに腕を引かれて、俺は座らされる。
どうして、と俺は反抗しようとしたが、その前にみんなは注文を言ってくるから、口を挟むことはできなかった。
「私ビールがいい!」
「じゃあオレも」
「私はオレンジジュースで」
3人が言ってから、一ノ瀬くんは俺に視線を向けてくる。
「佐伯さんは?」
そんなふうに聞かれたら、やっぱり俺が行くだなんて言えなくて俯いた。
みんなを待たせるのも申し訳無いし、ここで時間を取るのも迷惑だ。
「……麦茶、でいいです」
「分かりました」
そう言うと、一ノ瀬くんは1人でキッチンへと行ってしまった。
俺は取り残されて、1つ溜息を吐く。
どうしてこんな態度を取ってしまうのだろう。
怒っている訳じゃないけど、やっぱり色々と悔しい。
「……喧嘩でもしたんですか」
「え?」
すると、急に早坂さんに話し掛けられ、俺は顔を上げた。かといって、俺の隣に座る早坂さんは俺を見るでもなく、ただ綺麗に正座をしている。
世良さんみたいなこと聞くなぁ、なんて思った。
「いえ、別に喧嘩はしてないですよ」
「そう」
俺が答えると、早坂さんは元から興味が無かったように、気の無い返事をする。
早坂さんはそういう人だし、今更気にしないけど。それに、深く聞かれても俺が困るだけだ。
そうしてまた黙り込むと、次は生駒さんがテーブルに身を乗り出してきた。
「ねぇねぇ、何して遊びますか!」
そう言って、持って来たオシャレな白いバッグから色々なものを取り出してテーブルの上に置いていく。
トランプ、ドミノ、ウノ、ジェンガ、黒ひげ危機一髪。とても外出用バッグから出てくるとは思えない程の玩具が出てくる。
「家にあるやつたくさん持って来ました!」
「へぇ、いっぱい持ってるんだね」
世良さんは意外にも、興味深そうにそれらを眺めた。勝手なイメージだが、世良さんはこういったゲームに強そうで。
早坂さんは特にどれでもいいのか、テーブルに頬杖をついている。
「でもさ、ただ遊ぶだけじゃ退屈でしょ?」
世良さんはにこりと笑って、トランプを手に取った。この顔は、絶対に良からぬことを考えているに違いない。
世良さんが何を言おうとしているのかは、容易に想像がつく。
「負けたら、罰ゲームね」
(……やっぱり)
いかにも世良さんの考えそうなことだ。
俺は別に驚きもしなかった。
それでも、生駒さんは目をキラキラとさせて喜ぶ。
まるで、初めての体験に心躍らせる子供みたいに。
「それ、すごく楽しそうです!」
「くだらない……」
対して早坂さんは、呆れたように小さく声を零していた。
果たして罰ゲームとは何をするのだろう、と思っていると、丁度一ノ瀬くんがキッチンから戻って来る。
両手でお盆を持ち、その上には器用に飲み物が置かれていた。
「何するんですか」
一ノ瀬くんは、一人ひとりの前にガラスコップを置き、ビールやオレンジジュース、麦茶を注いだ。
世良さんは俺に、切ってとトランプを渡し、何かをリュックの中から探し出し始める。
「えっとね……ゲームは普通にババ抜きでいいと思うんだけど…」
俺がカードをケースから出し、ババを1枚抜いてからトランプを切っていると、世良さんはリュックから変な小瓶を取り出した。
ラベルの文字は英語表記だった為、それが何かは誰も検討がつかない。
早坂さんは、怪訝そうな表情までしていた。
「…何よ、それ」
早坂さんの問い掛けにも、世良さんはにこにこと笑うだけ。とても安全なものとは思えない。
「何だと思う?」
「知らないけど。早く言いなさいよ」
明らかに早坂さんは小瓶の中身を警戒していた。
いや、早坂さんに限らず、俺も一ノ瀬くんも、生駒さんでさえも笑っていなかったのだが。
世良さんは、そんな態度の早坂さんに小瓶を手渡し、早坂さんも嫌々それを受け取る他なかった。
「だから、これ何って…」
「媚薬」
(……は?)
それをあまりに自然な口振りで言うから、誰も何も言えなかった。早坂さんは、慌てたように小瓶をテーブルに置く。
トランプを切る俺の手も、思わず止まってしまった。
なぜそんなものを持っているのか、なんて思ったが、最終的には、世良さんなら持っていそうだという結論に至る。
「…媚薬って……あんた何持って来てるのよ……」
早坂さんの口から出た言葉は、呆れると同時に嫌悪感のある声色で。
「それって、え…え……えっ…」
「言わなくてもいい」
一体何を言おうとしたのか、生駒さんは早坂さんに手で口を塞がれた。
すると世良さんは、テーブルに置かれた小瓶を手に取り、ガラス栓の蓋を開ける。
「…と言っても、効き目に個人差はあるし、そんなに強いものでもないよ」
開けた中からは、ほんのりと匂いが漂ってきて。
(花……?)
よく分からないが、ラベンダーのような、そんな匂いがした。
ふと隣に視線を向けると、一ノ瀬くんは興味なさ気でに小瓶を見ているだけで、一言も言葉を発さない。
そもそも、こういうことには関心が無さそうだし。
「…じゃあこの薬は、負けた人の飲み物に1滴ずつ入れていくっていうことで。念の為、誰かが3回負けたら、そこで終了ね」
瓶の中で揺れた液体は、すごく怪しい液体にしか見えない。
それ以前に、媚薬という存在そのものが、俺からしてみれば疑問だった。
媚薬とやらの効果を考えてみても、そんなのは漫画や小説の中での話だと思っていた。それなのに現物が目の前にあっても、その効果を疑わない訳にはいかない。
しかし、俺からやりたくないなどと言える訳がなくて。
「さ、やろうか」
そうして、ババ抜きが始まるのだった。
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