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4.最悪な告白の仕方-2
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次の日には風邪も治り、元の自分に戻った。
けれど、それは外見だけで、まだ心の部分は痛いままだった。
「ポン太、おはよう」
毎日学校に行く前にしていた習慣が、昨日できなかった分、早めに行ってする事にした。
それはポン太とのスキンシップ。
「かわいいなぁーポン太は」
李登がポン太に話し掛けると、ポン太は李登に気付いて思いっきり尻尾を振ってくれた。
その仕草に、なんでこんなに可愛いのだろうと思ってしまう。
「風邪は治ったのか?」
李登がポン太を触っていると、久しぶりに桃李が顔を出した。
「何で俺が風邪引いたの知ってるの?」
李登は風邪を引いた事を桃李には教えていない。なのに李登が風邪を引いた事を桃李は知っていた。それが李登には不思議だった。
昨日の朝は確かにポン太に触りに行かなかったけれど、それは昨日だけでは無い。
時々寝坊して行けなかったりもしていたし、早めに学校に行かなければならない時もあって、そんな時は専門学校に直行していた。
「陣内君が教えてくれたんだ」
陣内と聞いて李登は最初、誰だか分からなかった。
だか、空っぽの頭を動かしてそれが陽二の名字だという事を思い出す。
「なんで桃李兄が陽二を知ってるの?」
李登は、陽二と桃李が話しをするほど顔馴染みになっていた事に驚いた。
「よく来てくれるんだ。良い子だよね、しっかりしてて」
李登は、桃李の口から陽二の話しが出るとは思ってもいなくて、今日、陽二に学校で会ったら二人の関係を聞こうと決めた。
「すごくしっかりしてるよ。桃李兄以上かも」
「俺以上? へぇー、そんな子がいるんだ。それを聞いて俺も安心したよ」
「安心?」
「李登が元気無くても、陣内君みたいな子が側にいてくれたら相談しやすいだろうなって」
桃李は李登の顔を一目見ただけで李登が空元気な事に気が付いたようだった。
本当に李登はこの人には勝てない。
「俺元気無い?」
「元気無いね。今まで見て来た物とは違った元気の無さだな」
それを聞いて、桃李はこう言った。
「李登。俺が言うのもなんだけどさ、自分の気持ちは相手に言わないと伝わらない事もあるんだ。相手はそれを聞いてから初めて気付く事もある」
「そうなのかな…?」
「人の本当の感情を知る事は誰にもできないからな」
桃李の話しを聞いて、李登は桃李の言う通りだと思った。
李登は元晴に何も言っていない。
けれど、振られた事は言われなくても分かっている。でもそれは、元晴から直接振られたわけでは無い。
直接振られていないなら、元晴に李登の気持ちが伝わっているはずは無い。
振られるならちゃんと本人の口から聞かないと相手には自分の存在がどんな物なのか伝わらない。
ただの友達、知人、動物好き仲間。
元晴にとっての李登の位置はどこなのだろう。
それが何だか急に知りたくなった。
まだ李登は元晴の事を知り尽くしていない。一緒にいたらその未知だった物が埋まっていき、元晴でいっぱいになれるくらい李登は元晴が好きだ。
優しい元晴が好きだ。
自分を優しい人間だと分かっていない元晴が好きだ。
人には優しいくせに、自分の事になると手を抜く元晴が大好きだ。
全部、全部が大好きなのだ。
「俺…このままは嫌だ…」
分かりきっている答え。でもまだ李登は、相手に何も伝えていない。
元晴は李登が急に何であんな事を言い始めたのか分かっていない。
なら、李登がどうしてそう言い出したのか分かって欲しい。
あなたに好きな人がいるように、李登はあなたが好きなのだと気付いてほしい。
「桃李兄…ありがとう…」
李登はスモモを引き取りに行く日を日曜日に決め、今抱いている感情をそのまま言う事を決めた。
もう会う事ができないと思ったら言える気がする。
だってスモモを手に入れたらもう会う口実は無くなるのだから、さようならの代わりに好きですと言おう。
「いつも、いつもありがとう…。俺、桃李兄大好きだよ」
「李登…」
本人に言えなかった言葉がすんなりと出た。それは元晴が李登の話しを聞いてくれたからだ。
元晴の優しさが、李登は一人じゃ無い事を教えてくれた。
桃李が李登をずっと大切にしてくれたように、李登も桃李が大切な存在だと言う事ができた。
「桃李兄がフランスに行っていた間、俺本当は一人で寂しかった。けど…桃李兄がこうやって自分の店出せるようになって嬉しいよ。それに、俺の事考えて戻って来てくれたんだろ?」
本場フランスで修行していた桃李は、そこの本店を任されそうになった。それは異例の事でそう簡単になれる事では無い。
でも桃李はそれを断って日本に戻ってきた。
本店を任されるという意味を、李登でさえ分かっている。
それに、桃李の実力は日本に置いとく物では無く、もっと世界に広げるべきなのだ。
「俺が李登の側に居たかっただけだよ」
桃李のその選択は全て李登の為。
李登との空白の時間を埋めたいからと、桃李はその選択肢を取った。
李登はもう大人なのに、桃李の中ではまだまだ子供で、でもそれは当たっていないわけじゃない。
李登はまだ大人になりきれない子供だからだ。
「俺を一番に考えてくれてありがとう…。でも次は兄貴を一番に想ってくれる人探しなね」
「言ってくれるな。お前も大人になったんだな…」
「寂しい?」
「そりゃあ寂しいよ。でも嬉しい」
桃李の目に薄っすらと涙が出ているように見えたが、李登見て見ぬ振りをする事にした。
桃李も、もう李登だけを考えるのでは無く、もっと視野を広げるべきだと思った。
桃李を一番に想ってくれる人。
そんな人が現れたら李登は賛成して、その人に桃李をよろしくと託す事ができたら良いなとも思えた。
「お、やっぱりここにいたか」
声がして振り向くと、そこに陽二がいた。
「何で陽二がここにいるの?」
李登は予想していない訪問者に驚く。
陽二がこの道を通るなんて知らなかったからだ。
「おはよう桃李さん」
「あぁ、おはよう陣内君」
陽二が李登よりも先に桃李に挨拶をして、桃李は何だか照れ臭そうに挨拶を返していた。
李登は今まで見た事が無い桃李の表情に違和感があり、二人を交互に見る。
「お前毎朝ここに行ってるって聞いたから、今日も来てるかなって思っただけ。それに…」
「それに?」
陽二はチラッと桃李を見て顔をニヤ付かせた。李登はその不気味な表情を見て、この二人に何があったのだろうと不思議に思い、気になる。
「桃李さんに会いたかったから」
陽二のその一言に、李登は最初言葉が出なかった。
「陣内君。君ねぇ…」
桃李の顔は見る見るうちに真っ赤に染まって行く。
「え…陽二って桃李兄が好きなの…?」
「すげー好き」
李登の質問に、陽二は何も躊躇いも無く李登にそう返しす。
「陣内君…大人をからかうなって言っただろ」
桃李は真っ赤な顔で眉間に皺を寄せながらそう言ったが、何だか説得力が無い。
「大丈夫。俺精神年齢は貴方より高い自信あるから」
陽二は勝ち誇ったような顔を桃李に向けていた。桃李はそれ以上何も言わなかった。
「二人に何があったの…?」
李登は二人にそう聞くが、二人は何も話してはくれず、桃李は何も言わずに店の中に入って行き、陽二はいつもと変わらない顔で李登に普通の他愛無い話しをするだけだった。
「まぁ陽二なら良いか」
一番信頼している友人が桃李を好きと言っているなら別に李登は応援しても良いと思った。
陽二が桃李を好きになった経緯は分からないが、桃李のあの態度を見る限り満更でもなさそうだ。
「お互い頑張ろうか」
李登は何も言ってくれない陽二の肩を強く叩いて、陽二にもそして自分自身にも気合いを入れた。
「俺も頑張るぞ」
日曜日、どうなるか分からない。もしかしたら言うタイミングは無いかもしれない。
そしたら、その場でさよならだ。
一言で良い。
言ってちゃんと伝えたい。
自分の気持ちの全てを。
李登は日曜日が早く来てしまえば良いのにと思い始め、前とは違った気持ちで授業に取り組んだのだった。
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