アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2.
-
気持ちよく眠っていたら、今まで肌に触れていた温もりが急に動いた。欠伸を噛み殺しながら重たい瞼を擦る。カーテンの隙間から部屋に光が差し込んでいた。冬の朝だから、この明るさは……9時ってところか?
寝ぼけた眼に映るのは、見知った俺の部屋だ。だから今横になっているのは当然俺のセミダブルベッド。身長は並だし別に大柄な体型ってわけじゃ無いけど、シングルだとなんだか窮屈な気がして、アパートに引越しする時に購入したのがこのベッドだった。
モゾモゾとベッドの上で動きながら俺は逃げた温もりを捜した。
「一樹?」
一樹は上半身裸で壁にへばり付くように座り込んで俺を見ていた。その瞳は険しい。
何で一樹は俺を睨んでいるんだろう。それに何で脱いでるの?
そう思って自分を見てみたら、一樹だけじゃなくって俺も裸でいる事に気が付いた。
俺、どうして全部脱いで寝ているんだ?
首を傾げる。まだフルに動かない俺の頭だけど、どうやら俺が探していた温もりの正体は一樹で、二人で一緒にこのベッドで眠り込んでいたらしい事は何とか理解できた。だけど、さっきから俺を見る一樹はいつもとは何かが違う。いつも陽気に笑う一樹が、今は蒼ざめて固く口を結んでいるのだ。
「? どうかした……っ」
一樹に寄ろうとしたが不意に下半身に痛みが走り、その場で蹲る。そしてようやく俺は一樹が何故蒼ざめているのか、何で二人が裸なのかを理解した。理解した、というよりは昨晩の事を思い出した、が正しいかもしれない。
「今日もお持ち帰りできなかったぁ!」
そう叫んでやって来た一樹と酒を二人で際限なく飲み、呂律の回らなくなった一樹が
「そういや直生はどこまで俺の手に耐えられるんだ?」
そう言いだして。そのまま勢いでセックス……シたんだ。
俺の身体は恥ずかしさで身体中が熱く真っ赤になった。
「直生、俺……」
そんな俺とは反対に血の気が全く無いくらいに蒼ざめ、何かを俺に言おうと声を絞り出そうとしている一樹。アソコの痛みを堪えつつ、這うように一樹に寄って行った。そして彼に触れようとした瞬間。
「ワリィッ!」
一樹が、堰を切ったように謝り始めた。
「ホンットにゴメンッ! 俺、酔っていたから、まさか直生とあそこまでするつもりは……ゴメンッ」
ただひたすら謝罪の言葉を口にする一樹の姿を見て、俺の心はどんどん沈んで行く。
俺は一樹が『好き』だった。人に触れられることさえ苦手な俺がセックスできたことは奇跡に近い。だから酔っていたとはいえ一樹とした事は俺にとって運命の相手だってことで嬉しい事、だったんだ。
でも一樹はそうじゃない。『あそこまでするつもりは』と言った。
『直生とあそこまでするつもりは』の先はやっぱり『ナカッタ』、だよな。俺の事を友人と思っていたから昨晩の事は後悔している、って事だ。
それはそうだろう。俺も一樹も男だし、女好きと豪語していて合コンばかり参加している一樹がまさか『男』を抱くなんて事、昨日まで一度たりとも想像もしてなかっただろうから。
だから昨日のセックスが嬉しかったなんて言えない、よな。
キリキリ痛み出した胸。
でもそんな事に構っている暇はなかった。俺の思いに構わず延々と謝り続ける一樹をあやす様に『大丈夫だから』を繰り返して、床上に散らかっている荷物と衣服を強引に持たせて部屋の外へと押し出した。これ以上、抱きたくも無かった俺を見続けるのは一樹にとって苦痛だろう。
俺も謝り続ける姿を見るのも辛かったから蒼ざめたままの一樹に伝える。
「気にするな、俺は大丈夫だから。それより、こっちこそ……ゴメンな」
そう言って俺は扉を静かに閉めた。そして扉に凭れる。扉向こうで動く気配がして数分後玄関の開閉音がした。彼の気配がアパートから完全に消えたのと同時に、扉に沿って滑り落ちるようにして座り込む。
「……っ……あは……っ」
俺は、笑った。笑いながら、泣いた。
酒を呑んで、抱かれた一夜。
俺にとって夢のような一夜は、一樹にとっては悪夢の一夜になった―――
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 7