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8章-p3 復讐者は忘れた頃に②
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ナズは達者な口で散々挑発する割には受身体制だった。ザムシルが近づくと1歩引き、攻撃をかわしては反撃を仕掛ける。
苛立ったザムシルは踏み込むと、雷を刀のように鋭くし真っ二つにしてやろうと思ったが、殺さない約束を思い出し狙いを少しずらして振り抜いた。
ナズの左腕が肩からスパッと弾け飛ぶ。
ザムシルはナズの顔を凝視していたが、ナズはあの嫌な顔で嬉しそうに笑っていた。
とことん腹の立つ奴だと思った瞬間、ナズの失った腕が素早く再生し、その鋭い爪はザムシルの心臓を狙って飛んできた。
振り抜きざまで体制は悪かったが、その爪を左手で受け止めるとありったけの電圧で電気を流してやった。普通の人間なら即死する程度のものを、だ。
ナズは潰れたような酷い悲鳴をあげて倒れたが案の定絶命してはいなかった。だが、さすがにすぐ起き上がる事は出来ないようだった。
ザムシルはナズにゆっくり近づくと、その額に足を乗せて体重を掛けて踏みつけてやった。
「残念だがエヴィンを取り込んだのもつまらない努力だったようだな。貴様は所詮雑魚だ。」
ナズは電撃で痺れながらも引き攣る顔で笑い続けていた。以前のように怒りと憎しみを露わにはしなかった。
「ハハハハハっ、てめぇらへの復讐はもう終わってる。」ナズは嫌味たらしく笑った。
ザムシルはナズの腹に力の限り足を振り落とす。
ごふっ、とナズは苦しそうに吹き出すと、絶え絶えな呼吸を繰り返した。
とりあえずこんな所で止めておこうと、再びダードの気配を辿るため歩き出した。
「...はやくっ、いっ、...でやれよぉ、じゅ...ぶん、たの、っんで…ると、思うけどなぁ!!」
ナズの吐き捨てた台詞にザムシルは目を見開いて振り返った。背筋に冷えた電気が走るような感覚を覚え、ザムシルはすぐに駆け出した。
気配を辿り全力で走ると、小さな洞窟に行き着いた。ザムシルは迷わずにその洞窟に飛び込んだ。
中は非常暗く、様々な大きさのカタチの悪い岩と、所々から垂れる水で湿り、とても足場が悪かった。その為、素早く進むことが出来ずザムシルは苛立ちを感じていた。それと同時に不安がまとわりついた心臓が耳を塞いだ。暗闇の中で思考は「復讐は終わっている」ナズの言葉の意味をいく通りも予想し、ナズの考えそうな事、行動から答えを導き出そうとする。危険予測の本能から勝手に動く思考に、吐き気がするほど気分が悪かった。
「ダード!!」
何も見えない暗がりで一度呼びかけるも、返事はなかった。ダードの気配が消えている訳では無いから、最悪死んでいるわけでは無さそうだ。しかし、その他に考えられるナズの仕組んだ復讐のシナリオ...この時程思考をとめたいと思ったことは無かった。
やがて遠くに小さく明かりが見えた。
次第に洞窟は広がり大きな岩が点在する場所に出た。砂利に足を取られるもザムシルは素早くその明かりに近づいた。
近づくにつれ、人の声が聞こえた。
「...ぃ、...れっ、」
激しい息づかいと、肌を打ち付ける音。
「...にきぃ、...ぃしてます...」
小さなランプが2つ、その元で男が一心不乱に動いていた。
「アニキぃ!アニキぃ!オレっ本当にアニキの事愛してっ、」
男は何かに被さるようにしながら、その身体を激しく動かしていた。
瞬時に近づいたザムシルは咄嗟にそいつの後ろ首を思い切り掴むと、後ろへ放り投げた。
投げられた男、ギマライアは驚いた顔でひっくり返ると、怯え顔でにザムシルを見た。下半身には衣服を着用しておらず、興奮しきったそれはランプに照らされて光り、濡れているのが分かった。
何をしていたかは、すぐに理解した。
ザムシルは口を開かずにギマライアの首を掴んで持ち上げると、片手で雷を鋭く研ぎ澄ませ振り上げた。
「あらぁ?ダードの問題では殺生禁止じゃなかったのかしら。」
いつの間にやら洞窟に入ってきていたリラレルが、姿も見せずにそう言った。
ザムシルは視線をひとつも動かさなかった。
それどころか雷を解くこともしない腕には力が入り震えている。
「...ザムシル、やめなさい。」
リラレルはコツンと靴音を鳴らして、小さな明かりでも顔が分かる程度にザムシルのいる所に近づいた。
ザムシルは未だ表情ひとつ動かさない。
「ザムシル!」
少し大きくなったリラレル声が響く。
ザムシルは雷を収めると、ギマライアの腹をぶっきらぼうに蹴り飛ばした。
リラレルはいつの間にかザムシルのすぐ後ろにいた。背後からザムシルを包むように抱きしめると、耳元に唇を近づけて言った。
「あなたがここまで言うことを聞かないのは初めてね。」
「いくらでも罰は受けます。」
ザムシルの顔は表情を持たなかった。
「...考えておくわ。」
冷たく静かにリラレルはそう言うと、ザムシルの背を押した。
ザムシルは揺れるランプの明かりで照らし出された恋人の姿に顔を歪めた。
冷たい岩の上に仰向けに寝かされた彼の身体にはいくつもの痣が浮かび上がり、両腕は頭の上で肌に食い込むほどにきつくワイヤー縛られていた。力の抜けた足は開いたままだらんと床にたれ、今先まで遊ばれていた場所からは復讐の真意が垂れ流れていた。
ザムシルは手首のワイヤーを素早く切り、冷え切った恋人の身体を抱き寄せた。むき出しの肩に自分の上着を掛けてやってから、強く抱きしめた。
意識がない訳では無いが、強引に痛め付けられ続けた身体には一切力が入っておらずその全てをザムシルに預けていた。
ザムシルに抱きしめられて少しだけ解れた緊張からか、ダードは何も言わずに苦しそうに泣きだしていた。
「ほら、鉱山に戻るぞ。」
ザムシルがいつもの調子でそう微笑みかけと、ダードは声を荒げて泣き始めた。そして泣きながら何度もごめんと繰り返した。ザムシルが言わなくてもいいと諭しても、何度も何度も繰り返し言い続けた。
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