アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
普段の俺と兄とは1
-
さて。
平凡といえば皆同じに聞こえてしまうだろうが、同じ平凡2人を比べれば何かしら違いはあるわけで。
かくなる俺ーー天原 太陽(アマハラ タイヨウ)高1ーーも何をやっても普通。170㎝ほどの身長も、少し低いような気がしないでもないが普通。顔も普通。成績も普通。と、一般的に言われている平凡だ。
が、しかし。やはりそんな俺にも個性があるわけで。
「母さーん!いえ、お母様っ!心からお願いします!髪を染めるためのお金をどうかお恵みください!」
よく晴れた日曜日の午後。
暑くもなく寒くもなく過ごしやすい4月中頃の春の季節。そんな清々しい休日。
俺は、それはそれは見事な土下座で、台所に立って昼食の後片付けをしている母さんに必死にお願いしている。
何故こんなことをしているか。
それは、とても不本意ながら俺には、母さんに土下座してでも隠してしまいたい個性を持っているからだ。
「何を言ってるの!せっかく綺麗な私譲りの金色の髪なのに、それを事もあろうに、よくわからない液体で痛めつけて変色させるだなんて!なんて親不孝ものなの!」
「いやいや、親不孝って…。高校生でこんな金髪なのは不良でもない限り日本じゃありえないから!学校でも落ち着いた色に染める分には問題ないって言われたし!…それともなにか!?母さんは、大事な大事なこんな可愛い息子がそこらへんのチンピラに絡まれて、目も当てられないような酷い目に合うのをご所望なんですかぁ!?」
そう。俺の個性とはこの母親譲りの、光にかざせば銀色にも見える金髪だった。
俺の母さんは、いろんな国籍の外国人の血を引いてるらしくーーつまりハーフやクォーターのオンパレードの家系に生まれたーーとても派手な見た目をしている。その一番の特徴が金色に輝くゆるく巻かれた金髪だ。ただの金髪よりは色素が薄い。堀の深い外国人な顔立ちの母さんには似合っても、日本人である父親譲りの平凡な顔をした俺に似合うかは正直微妙なところだ。
似合わないと言わないのはちょっとした意地でもある。
「あら!それは大変!それならそうと早く言ってよタイくん。嫁入り前の身体になんかあったら大変だものね!いいわ。はい、お金。ついでに伸びてる髪も切って来なさい」
空耳だろう。少し理解に苦しむ単語が入っていたがそこは触れないでおく。男には入ってはいけない領域があることを、俺はちゃんと知っているんだ。
ともあれ、もらった2万円で早速カットとカラーリングをしてしまおう。
「うぶっ…!」
が、さっと立ち上がって振り向いたとたん何か壁のようなものに顔面をぶつけて、なんとも言えない声がでる。
けっして高いと言えない鼻が潰れてないか心配だ。
こんな廊下のど真ん中に壁なんてないはずだと、痛む鼻を押さえて顔を上げると、
「おん?太陽が金の無心してるー。ええー、いいなー。おふくろ俺も俺も!」
巨大な壁……いや、俺の2歳上の兄貴ーー天原 紅葉(アマハラ コウヨウ)高3ーーが、運動部で鍛え上げられ程よく筋肉のついた、190㎝近い身体に似合わぬ子供っぽさで、無邪気に笑っておねだりしている。
平凡顔の俺とは違って、紅葉はキリッとした目が特徴的なワイルドイケメンだ。
髪色は俺と違って親父と同じ黒。
いつも何が面白いのか笑ってることの方が多く、また笑った時につり気味な目尻が下がって少し幼い印象になる顔が、ギャップがあって女性に人気らしい。
ここまで聞くと完璧な男前に聞こえるだろうが、そんな紅葉でもなんと欠点があるのだ。
それは、
「なんだよー、太陽だけずりーよ。俺もコンビニのアイス買い占めて食いたいのにー!」
「コウくん違うわよ。タイくんは髪を染めに行くの。そのためのお金よ。」
「んん?なんだそうなのかー。」
「そうそう。はい、じゃあコウくんにもおこずかい。それでコウくんの大好きなガリ◯リくん5本は確実に買えるわよ」
「まじー!おふくろありがとー!」
と、ニコニコ顔でもらった500円玉を握りしめている。
はじめの買い占め発言は何処へやら、アイス5本で解決してしまった。
なんと言うか、紅葉は少々天然が入ってるのだ。
見た目に引き寄せられて来る女性は沢山いるが、それでも彼女が出来ない唯一の理由がこの天然の入った子供っぽい性格のせいだ。
女性達の熱烈なるアピールも全く気づかずにスルーしてしまうのだ。
いまいちモテない俺に対する嫌味としか思えないが、邪気のない笑顔を見てるといいかと思ってしまうからタチが悪い。
「いったた……。コウ兄!俺の鼻がこれ以上潰れたらどうすんだよ!」
「ぶつけたのかー?んじゃ、俺が撫でてやるよー。」
( ええ、ぶつけましたとも。お前のその素敵な胸板にな!無駄な脂肪がないから余計に痛いっての!くっ…羨ましいぜ!)
若干痛みで涙目になりながら睨んでると、不思議そうな表情をしてこちらに手を伸ばしてくる。
「本気で撫でようと、するな!」
「なんだー?平気そうじゃんかー。」
パシッと、その手を払い落とす。
こんな歳にもなって、痛いの痛いの飛んでいけ的なことをやるとか、一体誰得になるというんだ。
「タイくんさっさと染めて来ちゃいなさい。夕飯までには帰ってくるのよ。」
「あー、うん。わかった。」
「んじゃー、俺も途中まで一緒に行ってやるぜー」
「だから、こんな歳で仲良く兄弟でお散歩的なことをして一体誰得になるっていうんだ…。」
がっくり肩を落とす俺。
紅葉と一緒に歩くのは目立つので日頃から極力避けている。
同じ兄弟でも何故こんなに違うのか。神様の悪戯なのだろうか。時々そんなくだらないことを考えてしまう。
「太陽ぉ、終わったら連絡しろよー?」
「へ?なんでだよ?」
「んー?迎え行ってやるぜー」
「は?子供じゃあるまいし、いいって…」
「んでー、2本分アイス代残しとくから、買って食いながら帰ろうぜー?それまで家でアイス3本食って待ってるからよー。」
何を突然言うかと思えば。
ニカッと、白い歯を見せて名案を思いついたという風に笑う紅葉。
「へいへい、わかったよ。」
キラリと光る白い歯が眩しい。
なんだかんだ言って、こういう裏表のないところが紅葉のいいところだ。
昔からこの髪色のせいで虐められてた俺にとっては安心出来る相手でもある。
ちなみに誤解されないように言っておくが、俺は決してプラコンなわけではない。決して。神に誓って。
「じゃー、おふくろ行ってくるなー。」
「二人とも気をつけてね」
「「はーい」」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 7