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博士登場
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ゴールデンウィークも終わりだというのに、僕はただ自分の部屋で寝転がってゲームをしていた。ファンタジーな世界で畑を耕し、家畜を育て、お料理したり友達作ったり。僕もこの世界で暮らしたい。相手の方を向いてAボタンを押すだけで、その人と仲良くなれたらいいのに。
「清司くん!ちょっと下おりてきなさい!」
1階からお母さんの声が聞こえたので、僕はのそのそと起き上がった。
「清司くーん?早くー!」
今行くよ、と心の中でだけつぶやいて、部屋を出た。
お母さんは1階の玄関のところにいた。にこにことしたよそいきの顔をしている。
「隣の家に越してきた方たちが挨拶に来られたの。息子さん、清司くんと同じ歳で、同じ高校に通うらしいわよ。仲良くしてあげなさいね」
「…うん」
僕の家の隣は、長いこと空き地になっていた。そこに新しく大きな家が建ったのは、ここ最近のことだ。豪華な家が建ったけど、どんな人たちがやってくるんだろうね、と家族の間でも話題になっていた。
玄関の外には、2人の人が立っていた。1人は美人で優しそうな女の人。お母さんだろうか?そしてもう1人の男の子が僕に笑顔で話しかけた。
「はじめまして!清司くんっていうんだ?俺は勉。勉強の勉って書いて、つとむって読むの。よろしく」
王子様みたいにかっこいい人だ。すらっと背が高くて、少し茶色っぽいさらさらとした髪の毛、切れ長な二重、高い鼻…。
「清司くん?どうしたの?」
「え、あ!ご、ごめん」
目の前に手が差し出されていたことに気づいて、慌ててそれを握った。
「よ、よろしくね」
「うん!」
挙動不審な僕に嫌な顔一つせず、勉くんは爽やかに返事をした。
さぞかしモテるんだろうな。お母さんはさっき「仲良くしてあげなさい」なんて言ってたけど、僕が仲良くするまでもなくたくさん友達を作っちゃうんだろう。むしろ僕なんて、邪魔になるだろうな。
「それでは今日はこれで失礼しますね。わざわざ出てきてもらってすいません。これからよろしくお願いします」
勉くんのお母さんは上品に挨拶をしてお辞儀をした。
「いえいえ!こちらこそよろしくお願いします。こんなお菓子までいただいちゃって」
「お口に合えば嬉しいです。さあ、勉、行きましょう」
「うん。じゃあね、清司くん」
「あ、う…」
とっさに返事をすることができず、僕はとりあえずたくさんうなずいた。
…いつもそうだ。僕は人との会話があんまり上手くない。面白い話はできないし、聞き上手というわけでもない。だから、ボタンを押すだけで会話ができて人気者になれるゲームが大好き。
「勉くんかっこよかったわねー。あ、そうそう。今夜雨降るらしいから、部屋の雨戸閉めといて」
「うん」
部屋に戻り、窓に手をかけてため息をついた。窓からは勉くんの家が見える。
今年のゴールデンウィークも友達と遊べなかった。だって友達がいないから。
勉くんみたいな人はどんなゴールデンウィークを過ごすんだろう。きっと楽しいんだろうな。家で1人でゲームして過ごすよりも…ずっと。
そんなことを考えながら、雨戸を閉めようと窓を開けたとき、目の前にあった勉くんの家の窓ががらっと開けられた。
「あれ!清司くんだ」
勉くんは優しそうな笑みを浮かべている。
「もしかして、そこって清司くんの部屋なの?」
「う、うん」
「おお!この部屋俺の部屋なんだよ。ちょうど正面だね」
「あ、そうなんだ」
「頑張ったら清司くんの部屋まで転がりこんじゃえそう」
「はは…」
勉くんがいろいろと話しかけてくれるのに、僕は緊張しちゃって全然言葉が出てこない。これじゃあわざとそっけなくしてるみたいだ。
「ねえ、清司くん?」
「あ、はい」
突然勉くんに呼びかけられた。
「会ったときから気になってたんだけど…なんだか顔色が悪くない?」
「え?」
僕は顔に手を当てた。当然だがよくわからない。
「どうかな…体調とかは、全然大丈夫だと思うけど」
「本当に?よく思い出してみて」
勉くん、やけに熱心に気遣ってくれるな。優しいんだなあ。
「あ、そんなにたいしたことじゃないんだけど、数日前からなんだかお腹が痛いな、とは思ってた」
「それじゃーん!それだよそれだよ!」
勉くんはなぜか満面の笑みで窓から身を乗り出してきた。
「あのさ、清司くん。もしかして、うんち、出てないんじゃない?」
「………え?」
突然下品なワードを出してきた勉くんにびっくりしたが、そういえば、最近全然出してないような気がする。
僕がそう告げると、勉くんはキラキラとした目で僕を見つめた。
「清司くん、それ便秘だよ。清司くんの下っ腹にうんちがたっくさんたまってるから、お腹が痛くなって顔色も悪くなってるんだよ!ああっいいね。清司くんの下っ腹を撫でまわしたい。皮膚越しに感じるうんちの気配」
「え、ええと、勉くん…?」
「『勉くん』なんて他人行儀だな!もっと仲良くなりたいから、素敵なニックネームで呼んでよ」
「素敵なニックネーム…」
「うん!俺のことは、うんち博士って呼んで!」
「う、う……っ?!」
隣の家に引っ越してきたイケメンは、どうやらとんだ変人だったらしい。
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