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小競り合いからの?
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「そりゃあ………昼ドラの話すか」
「昼ドラじゃない!現実問題この学園ではよくあることなんだよ‼︎どんなに尽くしたところで顔面値が高いやつが本気で落としにかかったらどうしようもない。例えばそいつが、真摯な態度と少し可哀想な表情を見せたらどんな女も男もそいつを放って置けなくなる。あっという間に攻略しちまう。だから…」
結局先輩の男についての恋愛講座はこの調子で小一時間行われた。なかなか面白い観点から物事を見ている人のようで俺もそれなりに先輩の話を楽しんで聞けたが講義中先輩は俺の上から退こうとしなかった。
「先輩、先輩、そろそろそこから退いてもらえませんかね…」
そろそろ退いてもらわないと背中が痛い。俺の腹に乗る先輩の太ももを軽く叩きながらお願いしてみると怪訝な顔で先輩はため息をついた。
「ああ、そうだな。イケメンを見下しながら説教するのが心地よくて気づかないふりしてたわ」
「わざとだったんですね…」
げんなりした顔で先輩を見るが、楠木に向けていた迸るような怒りの影がそこにはもうなかった。
だからもう少し親睦でも深めてみるか、とおちょくるような発言をしてみた。
「でも先輩、そんなこと言って、案外俺のこと好きじゃないですか」
しかしそれに対してまともな返しはなかった。それどころか、先輩は少し沈黙したあと予想外の角度から変化球を投げてきた。
「ああそういや代永から聞いてるけどお前風紀委員長のお気に入りなんだって?」
「…はい?」
俺はポカンとした顔になってしまう。そもそも代永とは風紀副委員長である、ということはわかっている。そしてこの先輩が先輩ってことは代永さんの同級生なのだろうってことも予想がついた。この感じだとクラスメイトか友達か何かか。
でも何の脈絡もなくなんだその確認は。
「随分と面白い躾をされてたみたいじゃん?」
「躾…」
「詳しくは知らないが尋問室から出てきた後のお前は毎回ボロボロだって聞いたぜ?」
それはあの殴られたり蹴られたり踏まれたり詰られたり薬盛られたりのことだろうか。
あんなのが躾で通るなら、世の中の虐待はそのほとんどが正当化されておかしくない。
「そんなんだからターゲットにされるんだろ。お前もっとなんか控えろよ…」
「ひ、控える…?なにを……」
「そりゃあ…」
これ以上何をどういう風に控えればいいのか教えて欲しい。俺はあの委員長に向かって偉そうな態度を取ったことはないし俺から喧嘩を売ったこともない。俺が持つ親衛隊自体もおとなしくて無害であるため迷惑をかける機会もそうそう無い。これ以上何をどうやって控えろと?
「まずその目をやめろ」
「目…」
「そうだ。目だ。」
「………眼球を抉れと?」
「ちげえよバカ。お前は薄幸な雰囲気がある顔立ちだろ?」
「………そのような評価は初めてですが」
「そうなんだよ。薄幸美人って言葉はよく聞くが薄幸イケメンって言葉はあまり聞かねえからな。でもお前はそうなんだよ。顔立ちは完全に男だからそんなに弱々しくてすぐ死にそうとか儚いって感じではないんだが、何というか」
俺の頭の中では風紀委員長の言葉が頭をよぎっていた。「お前みたいにすぐに折れそうで絶対に折れない奴ってのは………ぶっ壊してやりたくなるなァ」という意味のわからないセリフ、意味がわからなすぎて無視していたがきっとこれが先輩の今言おうとしてることと底通しているのだろう。
「とにかくその目が原因なんだよ。もっとガッという感じにできないのか?」
「そんな無茶な…」
なんだよ「ガッという感じに」って。どうしようってくらい理解できないし実行できそうにない。
「…まぁそういう顔が母性をくすぐる顔って言うんだろうな。お前、年上の女性にもてそうだしな。羨まし」
「そうなんですかね?交流の機会がないからわからないです」
はははと苦笑を漏らすとまたも先輩はため息をついた。
「なーんかな。顔と性格のギャップよ。面は頼りがないような、孤独ですって感じの雰囲気でいるくせに、中身は自分の強さを過信してる。全て1人でも余裕でできるって感じだし、計算尽くの対応が逆に相手を煽ってるんだよな」
「……………そうなんですか?正直その感覚はイマイチ理解が及ばないというか」
「だろうな。じゃなきゃこんなことになってねぇわな」
やれやれ…と言いつつ先輩はようやっと俺の上から退いてくれた。立ち上がる先輩を見て自分もゆっくりと立ち上がろうと腰を上げた時、先輩が軽くトンっと俺を押した。立ち上がり途中の不安定な姿勢だったからその程度の衝撃でも俺は後方へ倒れた。
「こういうことをしてみたくなる顔ってわけよ」
再度先輩は俺に馬乗りになり、首に手を置きながら顔を寄せてきた。立ち上がろうとしても手の固定によって頭を上げることができず、くっつくんじゃないかってほど至近距離に先輩の顔がある。
「ほら、いつも計算され尽くした顔が少し剥がれてる」
まぁ今回は冗談ってことにしてやろうと言いつつ今度こそ先輩は俺の上から退いて教室を出ようとした。
「先輩!」
俺は慌てて先輩を呼び止めた。この人は過激だがきっといい人だ。名前くらい聞いておきたい。そう思ったからだ。
「名前くらい教えてくださいよ」
すると先輩は胡乱な目で俺を見てきたが、目を逸らしつつちゃんと教えてくれた。
「……渉」
「わたる…先輩」
「言っとくが俺に惚れんなよ」
「ははははは!了解です!」
ニヤッと笑った顔を隠しつつ後ろ手にひらひらと手を振りながら教室を去っていく渉先輩の姿を見てもっと仲良くなりたいと思ったが、接点はないのである。
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