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夜中
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優 side
「明日、また夜9時に来い」
玄関先で、秋斗は俺に言った。
「もしお前が来なかったら、翔がどうなるか…分かるな」
「…うん」
他に答える術もなく俯く俺の返事を秋斗はほくそ笑みながら聞くと、自分の家のドアを勢いよく閉じた。
そのバタン、という音と共に俺は逃げるように立ち去る。
身体中が痛い。
汚い。
早く家に帰ってシャワーを浴びたい。
耐えきれず、走り出す。
(…紫苑(しおん)、もう寝てるかな…)
寝てるよな、夜中の1時だし。
俺は今年の春に、8年間お世話になっていた「双葉児童養護施設」を退所し、親友の紫苑と二人で暮らすことにした。
男二人での同居を疑問に思う人もいるみたいだけど、俺は別に気にしてない。
仲良いから同居するだけだし、施設でもずっと一緒で、それが普通だったから。
十分くらい走ると、俺と紫苑の住むマンションが見えてきた。
紫苑の母親が残した財産で買えたマンションだ。
もちろん俺は一緒に住ませてもらってる分、高校と掛け持ちでバイトをしている。
そのまま走り続け、マンションの階段を駆け上がる。
そして「ただいま」と玄関の扉を開けた瞬間、寝ていると思っていた紫苑がとんできた。
「優!大丈夫だった??」
そう言いながら焦った様に俺の顔を覗き込んでくる紫苑に、一気に心が温かくなる。
(ずっと、起きて待っててくれたんだ…)
胸が感謝の気持ちでいっぱいになって、それを伝えたいのに、俺は性格上、それを言葉にする事は出来なかった。
「起きてたんだ…」
代わりに出てきた言葉に、紫苑はむくれた顔をする。
「『起きてたんだ』じゃないよ、今までより更に帰ってくる時間が遅かったから心配したんだよ!」
紫苑はいつもこうして人のことを全力で気にかけ、全力で心配してくれる。
だから俺も、巻き込むわけにはいかない。
そう思った。
「そんなに怒鳴るなって。
シャワー浴びてくる、紫苑は先に寝てていいよ」
その言葉で、俺は一目散に風呂場へ向かう。
が、紫苑は必死な顔でついて来て俺の腕を掴んだ。
「ねえ、優。やっぱり秋斗の所に行くの、やめて!酷いこと、されてるんでしょ?」
「…されてないよ…離せよ」
言えない。本当のことを言えない。
巻き込むわけにはいかないんだ、絶対に。
「うそだ!優、秋斗の所からいつもやつれた顔で帰ってくる。
最初のころは僕、信じたくなかったんだ…秋斗が優に何かするなんて。でも、優は帰ってくると毎回シャワーを浴びたがる。それに先週見ちゃったんだ…優が秋斗の家から戻ってきて、部屋で泣いてるの…」
その言葉に、肩がビクっと跳ねる。
(見られて…いた…?)
動揺を隠す方法も紫苑の言うことを否定する言葉も見つからず、俺は怒鳴ってしまう。
「いいから離せよ…っ!」
そして紫苑の腕を振りほどこうとした時、ちらっ、と袖がめくれてしまった。
紫苑の目がそれを捉える。
「それ…!」
息を飲んで、紫苑は凍りついた様にその傷を見つめた。秋斗に手首を縛られ、擦れて出来たその傷を。
(やってしまった…)
紫苑には知られたくなかったのに。
「優、この傷って…まさかー…」
「離せって!」
俺は紫苑の腕を振りほどいて風呂場に駆け込み、鍵を掛ける。
こんなこと…紫苑に知られるなんて、こんなみっともない姿を見られるなんて、嫌だ。
「ねえ、優!開けて!優!」
扉を叩く音と共に、紫苑の必死な声が聞こえてくる。
どうしよう。知られちゃった。
(俺、どうすれば…)
「優ってば!」
紫苑が泣きそうになっているのが声だけで分かる。
そうだ…紫苑はいつでも俺の事を心配し、友達として大事にしてくれる。秋斗もかつてはそうだったんだけどな…。
「優!扉を開けて!」
しつこい奴。
そう何度も迫られると、紫苑には話そうかな、なんて思い始めてしまうじゃないか。
でも、そうしたら紫苑は余計心配するに決まってる。
だけど、このままでいいのか…?
思考がぐるぐる回る。
話さなくても心配するじゃないか?それにバレてしまった今、隠したって仕様がないはず…。紫苑に隠し事をするのだって、本当は全然良い気分ではない。
そうだ、ちゃんと話さないと。
ちゃんと、話そう。
そう決めて恐る恐る扉を開けた瞬間、紫苑の驚いた顔が目に飛び込んできた。
「優!」
「なんだよ…泣きそうな顔をして」
笑って見せながら俺は紫苑の腕を掴んで居間へ引っ張って行き、ソファーに座らせた。紫苑はハーフ故のグレー掛かった目で戸惑ったように俺の顔を見る。
しばらく続く沈黙の後、俺は心を決めて紫苑と目を合わせた。
「…紫苑。俺の話、聞いてくれる?」
俺が言った途端、紫苑の目が見開く。
「話してくれるの?」
面食らった表情で聞く紫苑に俺が頷くと、心が軽くなったかの様にその顔が明るくなった。
「じゃあ、もちろん!聞くよ」
そう言って、俺の親友は嬉しそうに微笑んだ。
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